アムル人

アムル人：古代中東を揺るがした遊牧民の系譜

紀元前2千年紀前半、中東地域において、アムル人（アモリ人）と呼ばれる諸部族が台頭し、大きな影響力を持つに至りました。アッカド語では「アムル（Amurrū）」、シュメール語では「マルトゥ（mar.tu）」と呼ばれた彼らは、旧約聖書にも「アモリ人」または「エモリ人」として登場し、カナンの諸部族の一つとされています。アラム人と混同されることもありますが、明確に異なる民族です。

言語と文化

アムル語はアフロ・アジア語族の北西セム語に分類されます。彼らは、ウル第3王朝を継承する意識を強く持ち、シュメール的な宗教観や王権観を深く受け継いでいました。そのため、イシン第1王朝など、アムル人が建国した王朝では、碑文や法典がほとんどシュメール語で書かれていたという事実からも、その影響が分かります。行政言語などにもシュメール語やアッカド語が用いられたため、アムル語の記録は多く残されていません。

起源とメソポタミア社会への浸透

「アムル」や「マルトゥ」は、元々はメソポタミア西方の地域を示す地名でした。それが転じて、メソポタミアの西、シリア地方のビシュリ山周辺に住む遊牧民を指すようになったと考えられています。

ウル第3王朝時代から、アムル系の人名は記録に残っており、傭兵や労働者としてメソポタミア社会に浸透していました。ウル第3王朝の後半には、多くのアムル人が都市部を含むメソポタミア周辺地域に定住し、王朝はアムル系部族の侵入に対抗して城壁の建設や遠征を実施しました。シュメール人の記録には、しばしば「野蛮人」として描かれています。あるシュメール語の碑文には、アムル人を「破壊的で、猿のような特徴を持つ…敬意を知らず、神殿を憎悪する…麦も家も町も知らない山の住人…」と記述しています。

アムル人との戦いは、ウル第3王朝衰退の一因となりましたが、同時に彼らは傭兵、労働者、役人としてメソポタミア全域に浸透していきました。ウル第3王朝の末期には、ウルの上級役人にアムル人が就いていた記録も残っています。

アムル系王朝の時代

ウル第3王朝滅亡後、メソポタミア各地にイシン、ラルサ、バビロン、マリなどのアムル系王朝が成立しました。しかし、アムル人が統一した政治集団として行動したわけではなく、互いに覇権を争っていました。

アムル人がどのようにして権力を握ったのか、詳細は不明な点も多いです。しかし、ウル第3王朝滅亡後、メソポタミアで権力を握った王のほとんどがアムル系であったことは確かです。有名な人物には、アッシリアのシャムシ・アダド1世やバビロンのハンムラビがいます。ハンムラビは自らを「アムルの王」と称しました。「目には目を、歯には歯を」というハンムラビ法典の同害復讐原理も、アムル人の習俗から導入されたという説が有力です。

アムル人のメソポタミアへの流入は続き、その割合は増加しました。しかし、彼らはシュメール・アッカドの文明を受け入れ、同化していきました。紀元前17世紀頃までに、バビロニアやアッシリアに移住したアムル人は現地人と同化し、「アムル系」であるという意識は薄れていきました。しかし、シリア地方に残ったグループは、紀元前12世紀頃まで記録に残っています。

アムル王国

紀元前15世紀末、レバノン北部の山岳地域にアブディ・アシルタを王とするアムル王国が建国されました。遊牧民を主体とするアムル王国は、海岸部の都市からの逃亡者を受け入れることで軍を強化し、内陸部へと勢力を拡大しました。アジルの時代には、エジプトとヒッタイトという大国に挟まれた緩衝国家となり、両国からの圧力を受けるようになりました。最終的にはヒッタイトの従属国となり、紀元前1200年頃の社会大混乱によって滅亡しました。

アムルの父と主要部族

アムル人の族長達は「アムルの父」という称号を用いました。これは、アムル人が家父長制的な王権概念を持っていたことを示唆しています。シュメール・アッカド式の王権概念を受け入れた後も、この称号は長く使われ続けました。

アムル人には、ウル第3王朝時代のアッカド地方に侵入したディドニム族、メソポタミア各地で勢力を振るったハナ族（ハンムラビやシャムシ・アダド1世の出身部族）、各地に移住したヤミナ族、シャムシ・アダド1世の同盟者であったラバユー族など、様々な部族が存在しました。

結論

アムル人は、中東の歴史において重要な役割を果たした民族です。彼らの文化、歴史、そして部族は、古代中東社会の理解に欠かせない要素となっています。今後の研究により、彼らの歴史や文化について、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

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