アッピア水道

アッピア水道 (Aqua Appia)

アッピア水道は、紀元前312年に古代ローマで建設された、記念すべき最初の水道です。この画期的なインフラストラクチャーを建設したのは、当時の最高位の公職の一つである監察官を務めていたアッピウス・クラウディウス・カエクスです。彼はまた、ローマから南イタリアへと続く重要な軍事・交通路であるアッピア街道の建設者としてもその名を歴史に刻んでいます。アッピア水道は、後の数世紀にわたって発展する壮大なローマ水道システムの基礎を築いた点で極めて重要です。

古代ローマの水道技術に関する詳細な記録を残し、自身も水道長官を務めた Sextus Julius Frontinus（フロンティヌス）の記述によると、アッピア水道の総延長は約16.6キロメートル（ローマ・マイル換算で11.190マイル）に及びました。その大部分、実に約16.5キロメートル（11.130ローマ・マイル）は地下に掘られた導水渠（水路トンネル）として建設されました。地上に露出した構造物はこの全長のごく一部に過ぎませんでした。地下構造が主体であったことは、外部からの攻撃を受けにくく、安全に水を供給できるという利点がありました。

水源は、ローマの東に位置するプラエネスティーナ街道（現 Via Praenestina）の7マイルストーンと8マイルストーンの間に位置する交差点から左へ0.78ローマ・マイル入った「ルクラン」（Lucullan）と呼ばれる場所から引かれていました。この水源から、水は地下水路を通ってローマ市を目指しました。

アッピア水道は、現在のマッジョーレ門（Porta Maggiore）付近でローマ市街地へと到達しました。この辺りからは、地下から地上に出て水道橋として水を運びました。市街地に入った水路は、チェリオの丘（Caelian Hill）やアヴェンティーノの丘（Aventine Hill）といったローマの主要な丘陵地帯を通過し、最終的にはテヴェレ川（Tiber River）の近く、かつては牛市場として栄え、公共施設が集まる場所でもあったフォルム・ボアリウム（Forum Boarium）付近に到達していました。

フロンティヌスの記録によれば、アッピア水道がローマにもたらした日々の水量は、およそ73,000立方メートル（1,825クイナリア）でした。これは、当時のローマ市の人口や需要に対して、非常に重要な生活基盤を支える水量でした。

アッピア水道の建設は、単に水を供給するだけでなく、高度な土木技術と組織力を必要とする大規模公共事業の始まりを示していました。地下に長大な水路を掘削し、正確な勾配を維持して水を流す技術は、古代ローマのエンジニアリング能力の高さを物語っています。アッピア水道は、その後のローマ水道網の発展へとつながる最初のステップであり、古代ローマの都市生活と発展を支える上で不可欠な存在でした。

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