アッピア街道

アッピア街道：古代ローマの息吹を今に伝える「街道の女王」

アッピア街道（Via Appia）は、古代ローマ時代に建設された最も重要な街道の一つであり、「街道の女王」とも呼ばれるほどです。その歴史は紀元前312年に遡り、当時のケンソルであったアッピウス・クラウディウス・カエクスの主導により、ローマとアルバーノ丘陵を結ぶ道として建設が始まりました。この街道は、単なる交通路としての役割だけでなく、ローマ帝国の拡大と繁栄を支える重要なインフラストラクチャーでした。

歴史と建設

アッピア街道の建設には、頑丈なウェスウィウス山の火山岩が用いられ、その堅牢さは今日まで残る石畳が証明しています。当初のルートはローマのカペーナ門を起点とし、アリッチャ、テッラチーナなどを経てカープアまで至りました。その後、街道はさらに延長され、ベネウェントゥム（現在のベネヴェント）やウェヌシア（現在のヴェノーザ）を経由し、最終的にはタレントゥム（現在のターラント）やブルンディシウム（現在のブリンディジ）まで到達しました。また、109年には、ベネウェントゥムからブルンディシウムを直線で結ぶトラヤナ街道も建設されました。

紀元前71年には、スパルタクス率いる奴隷反乱が起こり、鎮圧後には反乱者がアッピア街道沿いに十字架にかけられるという悲劇も起きました。

ローマ帝国滅亡後、街道は一時的に使用されなくなりましたが、教皇ピウス6世によって修復され、再び利用されるようになりました。現在でも、街道の一部は自動車道として使用されており、特にローマに近い地域では、ローマ時代の墓碑や初期キリスト教のカタコンベが数多く見られます。

聖ペトロとアッピア街道

アッピア街道は、キリスト教の歴史においても重要な場所です。ローマでの布教中に皇帝ネロの迫害を受けた聖ペトロが、アッピア街道でイエスの幻影に出会い、「主よ、どこへ行かれるのですか（Domine, quo vadis ?）」と問いかけた逸話は有名です。その場所には現在、ドミネ・クォ・ヴァディス教会が建てられています。この出来事をきっかけに、ペトロは再びローマへ戻り、逮捕されて逆さ十字架の刑に処されたと伝えられています。

現代のアッピア街道

現在、ローマのサン・セバスティアーノ門からドミネ・クォ・ヴァディス教会の先まで約10キロメートルにわたる旧アッピア街道（ヴィア・アッピア・アンティカ）は、アッピア街道州立公園として整備されています。ここでは、古代ローマ時代の石畳と松並木が残る美しい景観を楽しむことができます。一方で、並行して走る新アッピア街道（ヴィア・アッピア・ヌオヴァ）は、ローマ・チャンピーノ空港を経由する現代の高速道路として利用されています。

マイルストーン（里程標）

アッピア街道には、1ローマ・マイル（約1.48キロメートル）ごとに設置されたマイルストーンが現在でも残っています。これらのマイルストーンは、街道の距離を示すだけでなく、皇帝の業績を称える碑文も刻まれています。起点となるフォロ・ロマーノからの最初のマイルストーンは、サン・セバスティアーノ門の少し先にあり、複製がカンピドリオ広場に置かれています。碑文には、ウェスパシアヌス帝とネルウァ帝の功績が記されています。

世界遺産

アッピア街道は、2024年にユネスコの世界遺産に登録されました。その登録基準は以下の通りです。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの

関連情報

アッピア街道の終点であるブリンディジや、レスピーギの交響詩「ローマの松」にもアッピア街道が登場します。また、アッピア街道の建設を主導したアッピウス・クラウディウス・カエクスは、アッピア水道の建設も手掛けました。アッピア街道周辺には、アッピア街道州立公園をはじめとする多くの史跡が点在しており、古代ローマの歴史と文化を今に伝える貴重な場所となっています。

外部リンク

アッピア街道 - ローマ帝国の高速道路
アッピア旧街道州立公園 公式サイト
アッピア旧街道州立公園 イタリアの公園サイト内

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