アツミゲシ

アツミゲシ（渥美罌粟）とは

アツミゲシ（Papaver setigerum）は、ケシ科ケシ属の一年草（越年草）です。和名は、1962年に愛知県渥美半島の沿岸部で初めて日本への帰化が確認されたことに由来します。日本では、あへん法により栽培が原則として禁止されている植物です。保健所や警察では、学名の種小名から「セティゲルム種」と呼ばれることが一般的です。

分布

原産地は南ヨーロッパ、東ヨーロッパ、北アフリカなどの地中海沿岸地域であり、世界各地に帰化植物として分布しています。原産地では現在も多くの野生株が自生しています。

形態

高さは60～80cm程度で、一般的なケシ（ソムニフェルム種）よりも小型です。茎は直立し、よく分枝し、上部には長さ3mm程度の肉質の剛毛が見られます。葉は緑灰色で、狭心形で大きな欠刻があり、縁は鈍い鋸歯状になっています。欠刻の先端には茎と同様の剛毛があり、葉は無柄で基部が耳状に茎を抱くように互生します。

花は春から夏にかけて茎の先端に咲き、直径約6cmの4弁花をつけます。花はソムニフェルム種よりも小型で円形に近く、特有の強い臭いがあります。花弁の色は白色から赤色、濃い紫色まで変化し、しばしば大きな斑紋が見られます。日本で発見されるものは、白い花冠の下部に淡いピンク色の斑点を持つものが多いです。萼はソムニフェルム種と同様に早落性で、開花時にはありません。開花前の蕾は最初は下を向き、次第に立ち上がって開花時には直立しますが、ソムニフェルム種とは異なり、蕾には剛毛が密生しています。

果実は長球形で、先端に5～9本の放射線状の柱頭が残ります。果実は直径約1.5cm程度で、ソムニフェルム種よりも小型です。種子は黒色で、これもソムニフェルム種より小さく、熟した孔蒴果の上部の小孔から飛び出して散布されます。散布された種子は秋に発芽してロゼットを形成し、春に茎を伸ばします。

ソムニフェルム種との関係

アツミゲシはモルヒネを含有するため、かつてはソムニフェルム種の原種ではないかと考えられていました。しかし、染色体調査の結果、両種は明らかに異なり、現在では否定されています。ただし、現在でもソムニフェルム種の亜種として扱われる場合があります（Papaver somniferum L. subsp. setigerum (DC.) Arcang.）。

英名は「Wild poppy」ですが、英語圏各国に自然分布していないため、この名前がアツミゲシを指すことはほとんどなく、学名が用いられることが一般的です。イギリスで「Wild poppy」と言えば、通常は在来種のヒナゲシを指します。

日本への侵入

アツミゲシが日本で初めて確認されたのは1962年5月中旬で、渥美半島の先端の海岸沿いに群生しているのが発見されました。当初は人海戦術や除草剤による駆除が試みられましたが、効果は薄く、自衛隊が出動して火炎放射器で焼き払うという事態にもなりました。その後も駆除が続けられていますが、アツミゲシは着実に分布を広げ、現在では北海道から九州まで広い範囲で帰化が報告されています。

根絶が難しい理由として、繁殖力の強さに加え、原産国や帰化国から輸入された肥料に種子が混入し、発芽を繰り返すことが挙げられます。道端や放置された草むらに自生していることが多く、発見されるたびに警察や保健所が出動する事態が繰り返されています。

生態系への影響

アツミゲシは、都市の空き地や路肩など、人間によって攪乱された場所に侵入します。日本では発見され次第駆除されているため、生態系への影響はほとんどないと考えられています。

人間との関わり

アツミゲシの未熟果にはアヘンアルカロイドが含まれていますが、果実が小さいため、アヘン採取は現実的ではありません。アヘンやモルヒネの採取には、より大きな果実をつけるソムニフェルム種が用いられるのが一般的です。アツミゲシにアヘンアルカロイドが含まれていることが判明したのは1953年以降であり、原産地でもアツミゲシからアヘンが採取された記録はありません。

日本では、アツミゲシとソムニフェルム種の栽培が法律で禁止されており、毎年5-6月の開花期には、各地の保健所が注意を呼びかけるキャンペーンを実施しています。しかし、栽培禁止は十分に周知されておらず、美しい花として栽培してしまうケースも少なくありません。植えてはいけないケシと、園芸用のヒナゲシやナガミヒナゲシとの区別には注意が必要です。特に、葉が茎を抱くように付いているケシには注意が必要です。

海外では、観賞用として栽培が合法な国も多いですが、日本のように栽培そのものを禁止している国はまれです。海外から種子を輸入する際には注意が必要です。また、ヒナゲシなどのケシ科植物の種子に混入している場合もあるため、注意が必要です。

2008年には、茨城県下妻市の公園で数十万本のアツミゲシが発見され、フラワーフェスティバルの開催前に駆除されました。2024年5月には、茨城県東海村で5歳の保育園児が道路沿いに咲くアツミゲシを発見し、駆除される事態となりました。

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