アテナ (ロケット)

アテナ

アテナ（Athena）は、アメリカ合衆国の航空宇宙企業ロッキード・マーティン社が開発した、人工衛星打ち上げ用の固体燃料ロケットです。主に小型人工衛星を様々な軌道へ投入することを目的として設計されました。

開発経緯

アテナの開発は、前身となるロッキード社の「Lockheed Launch Vehicle（LLV）」計画として1993年1月に始まりました。この計画では、同社が手掛けていたポラリス、ポセイドン、トライデントといった弾道ミサイルの開発で得られた技術的知見や実績が活用されました。1995年、ロッキード社とマーティン・マリエッタ社の合併に伴い、名称は「Lockheed Martin Launch Vehicle（LMLV）」へと変更されます。最終的に、1998年にNASAの月探査機「ルナ・プロスペクター」を打ち上げた際に、「アテナ」という現在の名称が初めて用いられることになりました。

1995年以降、計7機が打ち上げられ、そのうち5機が打ち上げに成功しています。

基本構成とバリエーション

アテナロケットには、段数や構成が異なるいくつかのバリエーションが存在します。

LLV I / アテナ I: 3段式の構成をとります。初期のLLV Iではピースキーパーミサイルの第1段モーターが使用されていましたが、後のアテナ Iでは商用版改良型であるチオコール社製キャスター120モーターが第1段に採用されました。第2段にはプラット・アンド・ホイットニー（P&W）社製のオーバス21Dモーター、そして最上段には「Orbit Adjust Module（OAM）」と呼ばれる液体燃料（1液式ヒドラジン）モジュールが搭載されています。OAMを用いることで、固体燃料ロケットながら高精度な軌道投入が可能となりました。
全長：約18〜18.9m
直径：2.36m
重量：約62.8〜66.3t
低軌道（高度185km）打ち上げ能力：790kg〜800kg
打ち上げ費用（アテナ I）：約1700万ドル

アテナ II: 4段式の構成を持ちます。第1段と第2段にキャスター120モーターを搭載し、第3段にはオーバス21D、そして第4段にOAMを使用します。オプションとして、チオコール社製オライオン38キックモーターを追加することも可能で、ルナ・プロスペクター打ち上げ時に実際に使用されました。
全長：28.2m
直径：2.36m
重量：120.7t
低軌道（高度185km）打ち上げ能力：2.0t
打ち上げ費用：約2600万ドル

発展型構想

アテナロケットには、さらなる性能向上を目指したいくつかの構想や計画が存在しましたが、すべてが実現したわけではありません。

アテナ III（初期計画案）: アテナ IIを基に、補助ブースターを追加して打ち上げ能力を大幅に増強する構想でした。デルタロケットなどで実績のあるキャスターIV補助ブースターを2本から最大6本装着することで、低軌道へ最大5.0tの衛星を打ち上げられる能力を目指しましたが、これは構想段階で終わり、実現には至りませんでした。

アテナ III（COTS案）: 2008年、プラネット・スペース社などが中心となり、NASAの商業軌道輸送サービス（COTS）計画の第2段階へ提案された案です。国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送を目的とし、第1段にスペースシャトルの固体ロケットブースター（SRB）を基にした大型モーターを使用するなど、従来のモデルとは大きく異なる構成をとる計画でした。高い評価を受けたものの契約には至らず、政府監査院（GAO）への異議申し立ても退けられました。

アテナ Ic / IIc: 2010年にロッキード・マーティン社が発表した改良型です。アテナ Iおよびアテナ IIの特定段モーターを、より新しいキャスター30モーターに変更することで、低軌道打ち上げ能力を若干変更する構成でした。これらは2012年の運用開始が予定されていましたが、その後の状況は不明です。

アテナ 2S: アラスカ・エアロスペース社が中型ロケットとして選択したモデルで、2014年に発表されました。アラスカ州のコディアック打ち上げ基地からの運用が計画され、最大6本の固体ロケットブースター（SRB）を装備することで、太陽同期軌道へ3.0tの打ち上げ能力を持つとされました。発射台の修復・改修を経て、2016年末から2017年初めの初打ち上げが計画されていましたが、その後の進展に関する情報は限られています。

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