アトリ (リシ)

アトリ：古代インド神話の聖仙

アトリは、古代インド神話において重要な役割を担った聖仙（リシ）の一人です。リグ・ヴェーダ、特に第5巻の賛歌は、アトリとその一族（アートレーヤ）によって編纂されたとされています。彼は七聖仙（サプタルシ）の一人であり、アートレーヤ・ゴートラの始祖でもあります。

ヴェーダにおけるアトリ

リグ・ヴェーダの第2巻から第7巻は、それぞれ異なる家系によって編纂されたと考えられています。その中でも第5巻は、主にアトリとその一族によって書かれたとされています。アトリ自身によって書かれたとされる賛歌は14篇のみですが、リグ・ヴェーダ全体を通してアトリの名前は頻繁に登場します。

特に、第5巻40番の賛歌では、アスラのスヴァルヴァーヌによって世界が暗闇に包まれた際、アトリが祭儀によって太陽を救ったという神話的な逸話が描かれています。この逸話からも、アトリがすでに神話の登場人物として認識されていたことがわかります。アトリの父はバウマ（ブーミ、大地の子）と伝えられています。

叙事詩とプラーナにおけるアトリ

ラーマーヤナではアトリの登場は多くありませんが、ラーマとシーターがアトリの庵を訪れ、アトリの妻アナスーヤーの祝福を受けたという記述があります。マハーバーラタでは、アトリはブラフマーの心から生まれた6人（または7人）のリシの一人として描かれ、リグ・ヴェーダで語られる太陽を救った物語がさらに詳しく語られています。

マハーバーラタによれば、神々とアスラの戦いの際に、ラーフが太陽と月に矢を放ち、世界が闇に覆われました。神々が敗北寸前となった時、アトリは自ら太陽と月に変身し、闇を払い、神々を救い、アスラたちを焼き払ったとされています。

アトリの子孫

ヴィシュヌ・プラーナによると、アトリはブラフマーの子であり、その子に月神ソーマがいます。ソーマはブリハスパティの妻ターラーを奪い、彼女との間に水星神ブダをもうけました。ブダとイラーの子であるプルーラヴァスは、月種の祖となりました。

アトリはアナスーヤーを妻とし、ダッタートレーヤとドゥルヴァーサスをもうけました。ブラーフマンダ・プラーナでは、アトリには10人の子がいたとされていますが、その中でもダッタートレーヤとドゥルヴァーサスの2人が特に有名です。ダッタートレーヤはヴィシュヌの化身とされ、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三神が一体となった神格として信仰されています。一方ドゥルヴァーサスは、その祝福や呪いによって様々な物語に登場します。例えば、カーリダーサのシャクンタラーでは、ドゥフシャンタ王がシャクンタラーを忘れたのはドゥルヴァーサスの呪いによるものとされています。

アトリは、リグ・ヴェーダの編纂、神話における活躍、そして信仰される神格ダッタートレーヤとの繋がりを通して、古代インド神話において重要な存在であり続けています。彼の物語は、インドの宗教や文化を理解する上で欠かせない要素となっています。

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