カーリダーサ

カーリダーサ：古代インド最高の詩人・劇作家

カーリダーサ（कालिदास, Kālidāsa）は、4世紀から5世紀にかけて古代インドで活躍した、サンスクリット文学史上最も偉大な詩人、劇作家の一人とされています。しかし、その生涯は謎に包まれており、確かなことは作品を通して推測するしかありません。

生涯と活動時期

研究者の間では、カーリダーサの出身地について、ヒマラヤ地方、ウッジャイン、カリンガ国のいずれかであるという説が有力です。その根拠として、彼の作品には、ヒマラヤ山脈の詳細な描写（『クマーラ・サンバヴァ』）、ウッジャインへの愛着が感じられる描写（『メーガ・ドゥータ』）、カリンガ国王への賛辞（『ラグ・ヴァンシャ』）が見られることが挙げられます。

また、ラクシュミー・ダル・カーラは、カーリダーサの作品にはカシミール地方特有の地形、民話、動植物に関する記述が見られることから、彼がカシミール出身であったという説を提唱しています。その後、有力者の庇護を求めて各地を転々としたのかもしれません。

伝説によれば、カーリダーサは元来愚鈍でしたが、妻の一言をきっかけに発奮し、偉大な詩人として才能を開花させたと伝えられています。また、セイロン島の王クマーラダーサのもとを訪れた際、陰謀によって殺害されたという説も存在します。

カーリダーサの活動時期については、ヴィクラマーディティヤ王の治世であったという説が有力です。ヴィクラマーディティヤという称号は、紀元前1世紀のウッジャインの王の称号でしたが、チャンドラグプタ2世（380-415年）やスカンダグプタ（455-480年）も同様にこの称号を用いていたため、カーリダーサがどちらの時代の人物であるかについては議論が分かれています。一般的には5世紀から6世紀の間に生きた人物だと考えられています。

634年にアイホールで発見された石碑には、詩人バラヴィと並んでカーリダーサの名前が刻まれています。また、473年のマンドサウルの寺院の石碑には、カーリダーサの詩を引用したと思われる碑文があり、これが現存する最古の文献学的証拠となっています。広く受け入れられている説では、カーリダーサはチャンドラグプタ2世（ヴィクラマディチャ王）の宮廷詩人であったと考えられています。

作品

カーリダーサは、3つの戯曲、2つの叙事詩、2つの抒情詩を残しました。

戯曲

マーラヴィカーグニミトラ（Mālavikāgnimitra）： アグニミトラ王と后の召使マーラヴィカーの恋物語
アビジュニャーナシャクンタラー（Abhijñānaśākuntalam）： ドゥシャヤンタ王と仙女の娘シャクンタラーの悲恋を描いた傑作。ゲーテが絶賛したことでも知られています。
ヴィクラモールヴァシーヤ（Vikramorvaśīya）： 人間の王プルーラヴァスと天女ウルヴァシーの恋物語

叙事詩

ラグ・ヴァンシャ（Raghuvaṃśa）： ラグ族の王統を描いた物語
クマーラ・サンバヴァ（Kumārasambhava）： 女神パールヴァティーの誕生からシヴァ神との結婚までを描いた物語

抒情詩

リトゥ・サンハーラ（Ṛtusaṃhāra）： 恋人たちの経験を通して、インドの6つの季節を表現した詩
* メーガ・ドゥータ（Meghadūta）： 雲に恋人へのメッセージを託すヤクシャの物語。美しい韻律で知られ、多くの詩に影響を与えました。

後世への影響

カーリダーサの作品は、古今東西の学者や詩人から高く評価され、多くの評論が寄せられています。特に、15世紀のマッリナータ・スーリによる評論はよく知られています。

彼の作品はサンスクリット文学だけでなく、インド文学全体に大きな影響を与え、ラビンドラナート・タゴールをはじめとする多くの作家に霊感を与えました。また、ヨーロッパの文学や芸術にも影響を及ぼし、カミーユ・クローデルの彫刻「シャクンタラー」にもその影響が見られます。

カーリダーサは、古代インドが生んだ最高の詩人・劇作家の一人として、今もなお世界中の人々に愛され続けています。

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