アドメーテー

アドメーテー（古希: Ἀδμήτη, Admētē）は、ギリシア神話において、この名を持つ複数の存在が知られています。特に主要なのは、大洋の精霊オーケアニデスのひとりと、ミュケーナイの支配者エウリュステウスの娘の二人です。

大洋の精霊アドメーテー

最初のアドメーテーは、大洋神オーケアノスとその配偶者テーテュースの間に生まれた、数千にも及ぶ娘たち、すなわちオーケアニデスのうちの一柱です。彼女は、冥府の王ハーデースに攫われた豊穣の女神デーメーテールの娘、ペルセポネーの親しい友人の一人として語られます。ホメーロスやヘシオドスの作品に登場する彼女は、ペルセポネーがシチリア島で友人と共に花を摘んでいた際に、突然ハーデースが現れて連れ去った、その場に居合わせたニンフたちの一人として名が挙げられています。

王女アドメーテー

もう一人のアドメーテーは、ミュケーナイの王としてヘーラクレースに過酷な試練を与えたことで知られるエウリュステウスと、その妻アンティマケーの娘です。彼女にはアレクサンドロス、イーピメドーン、エウリュビオス、メントール、そしてペリメーデースといった兄弟姉妹がいました。

この王女アドメーテーは、ヘーラクレースが挑んだ「12の難行」の一つを引き起こすきっかけを作った人物として知られています。彼女が、戦いの神アレースからアマゾーンの女王ヒッポリュテーに贈られた帯を強く欲しがったため、父エウリュステウスはヘーラクレースにその帯を持ち帰ることを命じました。これは、後に英雄の偉業として語り継がれる難行の一つとなりました。古代の著述家ツェツェースによれば、驚くべきことに、このアドメーテーはヘーラクレースのアマゾーンへの遠征に同行したとされていますが、他の主要な文献にはこのような記述は見られません。

さらに、このアドメーテーには、ヘーラー女神像を巡る興味深い伝承があります。彼女は元々、アルゴスでヘーラー女神に仕える女神官でした。しかし、何らかの理由で、アルゴスにあった由緒あるヘーラー女神像を伴って、海を渡ってサモス島へと逃れたと伝えられています。サモスの歴史家メノドトスによると、故郷アルゴスの人々は、逃亡したアドメーテーと女神像を取り戻すため、エトルリアの海賊に依頼してサモス島から像を奪還させようとしました。しかし、海賊が像を船に乗せたところ、船がまるで動かなくなったため、この計画は失敗に終わりました。海賊たちは像の不思議な力に恐れをなし、それをサモス島の海岸に置いて立ち去りました。サモス島の住民が海岸で像を発見したとき、彼らは像が自らの意思で逃げ出したものと誤解し、再び逃げ出さないようにと木に縛り付けたと伝えられます。しかし、アドメーテーは像を見つけ出し、それを清めて、サモス島のヘーラー神殿へと丁重に戻しました。この出来事を記念して、サモス島では「トナイア（縛り付けの祭）」と呼ばれる毎年恒例の祭礼が行われるようになったと語られています。ただし、この物語は、アルゴスがサモス島よりも古くからヘーラー信仰の中心地であったことを示そうとする、アルゴス側によって作られた伝承ではないかと考えられています。

このように、「アドメーテー」という名は、神話の世界で異なる立場や役割を持つ複数の女性に与えられています。一人は大洋の広がりを象徴するような存在、もう一人は人間の王家に生まれ、英雄の物語や神殿の歴史に関わる人物として語られています。

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