エウリュステウス

エウリュステウス：試練を課した王

エウリュステウス（古希: Εὐρυσθεύς, Eurystheus）は、ギリシア神話に登場するミュケーナイ及びティーリュンスの王です。その名は「あまねく強者」を意味するとされ、神話の中では執念深く、卑劣な性格の持ち主として描かれています。彼は、英雄ヘーラクレースに「12の功業」という過酷な試練を課したことで最もよく知られています。

生い立ちと神々の策略

エウリュステウスの父はペルセウスの息子ステネロス、母はペロプスの娘ニーキッペーです。姉妹にはメドゥーサやアルキュオネーがいます。ヘーラクレースの母アルクメーネーは、エウリュステウスの従姉妹にあたります。彼はアムピダマースの娘アンティマケーを妻とし、アドメーテー、アレクサンドロス、イーピメドーン、エウリュピオス、メントール、ペリメーデースという多くの子をもうけました。

エウリュステウスの出生には、神々の策略が深く関わっています。アルクメーネーがヘーラクレースを身ごもっていた時、ゼウスは「今日生まれる最初のペルセウスの子孫を全アルゴスの支配者とする」と誓いました。しかし、ゼウスの妻ヘーラーはこれに嫉妬し、出産を司る女神エイレイテュイアを遣わしてアルクメーネーの出産を遅らせ、代わりに未熟児であったエウリュステウスを先に誕生させたのです。ゼウスは自身の誓いを覆すことができず、この策略に怒り、策略を勧めた女神アーテーを天から追放しました。

ヘーラクレースとの因縁

ヘーラーの策略により、狂気に陥ったヘーラクレースは、自身の子供を殺害するという悲劇を犯します。その後、罪を償うためデルポイの神託を受けたヘーラクレースは、「ミュケーナイ王エウリュステウスに仕え、10の勤めを果たせ」という神託を受けます。

最初の功業でネメアーの獅子を倒し、その死骸を持ち帰ったヘーラクレースの力に恐れをなしたエウリュステウスは、以降の成果を城門の外で展示させるように命じ、自身は真鍮の大きな甕の中に逃げ隠れるという小心な一面を見せます。ヘーラクレースへの指示は、伝令コプレウスを通じて行い、直接顔を合わせることは避けていました。

当初10の功業とされていた課題は、レルネーのヒュドラー退治でヘーラクレースがイオラーオスの助力を得たこと、アウゲイアースの家畜小屋の掃除でヘーラクレースが報酬を得ようとしたことを理由に、エウリュステウスが認めなかったため、最終的に12の功業に増えました。また、アマゾーンの女王ヒッポリュテーの腰帯をヘーラクレースが取りに行ったのは、エウリュステウスの娘アドメーテーがその腰帯を欲しがったことが理由とされています。

アウゲイアースへの報復のため、ヘーラクレースがエーリスを征服してティーリュンスに帰還すると、エウリュステウスは彼を大王の位を狙っていると非難し、アルゴスから追放しました。

アテーナイとの戦いと最期

ヘーラクレースの死後、その子供たち（ヘーラクレイダイ）がミュケーナイの王位を奪うことを恐れたエウリュステウスは、彼らを殺害しようとしました。ヘーラクレースの母アルクメーネーとその子供たちは、各地を放浪した後、アテーナイのテーセウスに助けを求めます。

エウリュステウスはヘーラクレイダイの引き渡しを求めてアテーナイに戦いを挑みます。しかし、アテーナイが敗北を免れるためには、ヘーラクレースの娘マカリアーが自害しなければならないという神託を受け、彼女はマラトーンで自ら命を絶ちます。この戦いはアテーナイの勝利に終わり、エウリュステウスの息子たちは全員討ち取られました。エウリュステウス自身は逃亡を図りますが、ヘーラクレースの息子ヒュロスに捕えられ殺害されます。

一説には、殺される前にアルクメーネーに命乞いをしたものの、「息子の労苦を思えば、あなたを許すことはできない」と拒絶されたと伝えられています。ヒュロスはエウリュステウスの首をアルクメーネーに渡し、アルクメーネーはその両目を機織りの針でえぐり出したとされています。

エウリュステウスの死後、ミュケーナイの王位はアトレウスが継承しました。

エウリュステウスの系図

（ここでは省略）

まとめ

エウリュステウスは、神々の策略によって王位を得て、英雄ヘーラクレースに試練を課した人物です。その卑劣な性格と小心な行動は、ギリシア神話における権力者の暗部を象徴しています。彼の生涯は、神々の思惑と人間の運命が交錯する物語として、今も語り継がれています。

このテキストは、アポロドーロス、ロバート・グレーヴス、カール・ケレーニイなどの著書を参考に作成しました。

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