アニタ・エクバーグ

アニタ・エクバーグ：輝ける生涯と影

アニタ・エクバーグ。その名は、1960年のフェデリコ・フェリーニ監督による映画『甘い生活』で、トレヴィの泉に黒いドレス姿で飛び込むシーンとともに、世界中に知れ渡ることとなった。スウェーデン出身の彼女は、8人兄弟の6番目としてマルメに生まれ、ミス・ユニバース・スウェーデン代表に選ばれたことがきっかけで、ハリウッドへとその道を歩み始める。

当初は、雑誌のカバーガールとして活躍しながら、B級映画やコメディ映画に出演。しかし、持ち前の魅力と才能で、フランク・シナトラやユル・ブリンナーといった大物スターとの共演を果たし、ヘンリー・フォンダと共演した『戦争と平和』など、着実にキャリアを積み重ねていく。

転機は、フェデリコ・フェリーニとの出会いだった。フェリーニ監督はアニタを「神からの贈り物」と評し、彼女を『甘い生活』のヒロイン、グラマーなアメリカ人女優シルヴィア役に抜擢した。トレヴィの泉での象徴的なシーンは、映画史上に残る名場面となり、アニタを一躍スターダムへと押し上げた。

その後もフェリーニ監督作品に複数出演するも、期待されるほどの成功は収められず、1968年には脱税容疑で訴追されるという苦境にも見舞われる。1960年代後半からは、イタリアのB級映画に多数出演するものの、かつての輝きを取り戻すことはなかった。1970年代後半には、スクリーンから姿を消すことになる。

私生活においても、マルチェロ・マストロヤンニとの恋愛関係など、数々のエピソードが伝えられている。1987年、フェリーニ監督作品『インテルビスタ』では、本人役として出演。往年の輝きを失い、肥満した姿で、若い頃の自分の姿を見て涙する場面は、多くの人の心に響いた。マストロヤンニとの『甘い生活』のダンスシーン再現は、彼女のキャリアの集大成ともいえるだろう。

晩年はローマ郊外で愛犬と共に生活を送っていたが、足の骨折による後遺症で歩行困難となり、車椅子生活や入院生活を余儀なくされた。さらに、自宅からの窃盗被害や火災による損害などで経済的な困窮に陥り、2011年にはフェリーニ財団に経済援助を要請していたことが報道されるなど、晩年は苦悩の日々を送っていたという。2015年1月11日、ローマ南東部のロッカ・ディ・パーパで、その生涯を終えた。2度の離婚を経験し、晩年は孤独な生活を送っていたとされる。

アニタ・エクバーグが出演した作品は多岐に渡る。ハリウッド作品では『ミシシッピーの賭博師』『凸凹火星探検』『熱砂の舞』『底抜けコンビのるかそるか』『戦争と平和』『地獄の翼』『パリの休日』『ローマの旗の下に』など、コメディから大作まで幅広いジャンルに挑戦している。また、『ボッカチオ'70』『腰抜けアフリカ博士』『テキサスの四人』『イタリア式愛のテクニック』『火曜日ならベルギーよ』『フェリーニの道化師』『インテルビスタ』『リュシアン　赤い小人』など、イタリア映画にも数多く出演している。『007 ロシアより愛をこめて』では、巨大な広告に彼女の姿が使用されているが、映画本編には出演していない。興味深いのは、『腰抜けアフリカ博士』の巨大広告に描かれたアニタ・エクバーグの大きな口の中に隠し扉があり、そこから脱出しようとする敵を、ジェームズ・ボンドがライフルで撃つという、ユニークなシーンが存在することである。

アニタ・エクバーグの人生は、華麗さと苦悩が交錯するドラマチックなものであった。ミス・ユニバースからハリウッド、そしてフェリーニ作品での成功、そして晩年の孤独と貧困。彼女の波瀾万丈な人生は、これからも多くの人々の記憶に刻まれ続けるだろう。

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