アバザ人

アバザ人：黒海沿岸から世界へ広がる歴史と文化

アバザ人（アバジン人とも呼ばれる）は、ロシア連邦南部の北カフカス地方に暮らす民族です。カラチャイ・チェルケス共和国やアディゲ共和国などに多く居住し、2002年の統計ではロシア国内に約3万8千人が確認されています。主にイスラム教スンナ派を信仰しており、独自の言語と文化を保持しています。

独自の言語と文化

アバザ人が話すアバザ語は、北西コーカサス語族に属し、アブハズ語と深い関係を持つ言語です。カラチャイ・チェルケス共和国では、アシュハル方言とタパント方言の2つの方言が話されています。それぞれの地域や歴史的背景によって、方言に違いが見られます。この言語と文化は、アバザ人のアイデンティティを形成する上で重要な役割を果たしています。

カフカス戦争と国外への移住

アバザ人の歴史は、幾多の移住によって彩られています。彼らは元々黒海東岸のアブハジア西部に居住していましたが、14～15世紀頃にはアバジニアに移住。その後、18～19世紀にかけて、ロシア帝国の影響下でさらなる移住を余儀なくされました。

カフカス戦争は、アバザ人の歴史に大きな転換点をもたらしました。この戦争をきっかけに、多くのアバザ人が故郷を追われ、トルコ、ヨルダン、シリア、エジプトなど、様々なイスラム教国へ逃れました。特にエジプトに移住したアバザ人は、現在では「アバザ家」として知られる名家となり、社会的に高い地位と影響力を持つに至っています。こうした国外への移住は、アバザ人の歴史とアイデンティティに深く刻まれた出来事であり、世界各地に散らばるアバザ人コミュニティの形成に繋がっています。

トルコには、およそ15万人のアバザ人が暮らしています。彼らは、かつてアシュハル・クランに属し、ロシア帝国軍と戦った後、トルコへ移住した人々の末裔です。サムスン、ヨズガト、アダナ、カイセリ・ウズニャイラなどの都市に多く居住し、独自の文化を維持しながら生活しています。興味深いことに、アシュハル・クランのアバザ人がロシア帝国軍と戦っていた一方、タパントのアバザ人はロシア帝国軍に加わって戦っていたという歴史的背景があります。この事実が、アバザ人の歴史における複雑な側面を浮き彫りにしています。

アバジニアとアバザ人の未来

アバジニアは、かつてカラチャイ・チェルケス共和国の北部に存在した国です。現在のアバザ人の居住地と歴史を理解する上で重要な地域です。2009年には、カラチャイ・チェルケス共和国に「アバジニア地区」が設置され、アバザ人の文化と歴史の保存、継承に向けた取り組みが進められています。

アバザ人の歴史は、戦争や移住といった困難な経験と、独自の文化の維持という強い意志が織りなすドラマです。世界各地に散らばるアバザ人コミュニティは、それぞれの土地で独自の文化を育みながら、故郷であるカフカス地方との繋がりを大切にしています。アバザ人の未来は、この歴史と文化の継承の上に築かれていくことでしょう。

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