アパッチ戦争

アパッチ戦争：抵抗と悲劇の歴史

アパッチ戦争は、1851年から1886年にかけて、アメリカ合衆国南西部でアパッチ族を中心としたインディアン部族と米軍が激しく戦った一連の紛争です。この戦争は、単なる武力衝突ではなく、文化、土地、そして生存をかけた民族間の深刻な対立の歴史を物語っています。

戦争の背景

19世紀、アメリカ合衆国は領土拡大を進め、アパッチ族の住む地域は金鉱の発見や戦略的な要衝として白人入植者の関心を集めました。アパッチ族は、自分たちの土地と自由を守るために抵抗しましたが、アメリカ軍の圧倒的な軍事力と、白人入植者の侵略によって、次第に追い詰められていきました。アパッチ族は、ナバホ族など周辺部族とともに、白人入植者から一括りに「アパッチ族」と呼ばれ、攻撃の対象とされました。

アパッチ族の土地は金鉱が豊富であり、メキシコとの国境地帯でもあったため、政治的、経済的な重要性が高まっていました。略奪を生活の一部としていたナバホ族やアパッチ族は、合衆国にとって、大平原のスー族と並んで、植民地拡大のために排除すべき対象でした。アパッチ族は、保留地政策に強く反発し、メキシコとアメリカの国境付近の山岳地帯を拠点に、両国に遠征し、略奪や襲撃を繰り返しました。これらの行為は、白人入植者や土地投機家、連邦政府の政策によってしばしば挑発されていました。

アパッチの戦士たち

アパッチ戦争を戦った著名な戦士には、マンガス・コロラダス、コーチーズ、ビクトリオ、ナナ、エスカミンジン、ジュー、デルシェイ、アルチェセー、ジェロニモ、チャトーなどがいます。彼らは、部族の自由と尊厳を守るために、勇敢に戦いました。アパッチ族の社会は、完全合議制民主主義であり、白人が考えるような「首長」や「部族長」はいません。インディアンの「首長」は、実際には「調停者」であり、戦士たちは個々の判断で行動しました。白人の考える「軍事指導者」や「戦争首長」は、アパッチ社会には存在しませんでした。

戦争の発端

米墨戦争（1846年 - 1848年）中、多くのアパッチ族は米軍の通行を許可していました。1846年にアメリカがメキシコの旧領土の領有権を主張した際、マンガス・コロラダスは和平条約に署名しましたが、これは「文字を持たないインディアンに×印を書かせる」というものでした。しかし、1850年代になると、ニュー[[メキシコ準州]]で金鉱が発見され、白人採掘者が流入し、アパッチ族との平和は崩れ始めました。

1860年12月、白人採掘者がアパッチ族の野営地を急襲し、多くのアパッチ族が殺害された事件をきっかけに、アパッチ族の報復が始まりました。アパッチ峠一帯は、アパッチ族にとって重要な水資源地であり、死守すべき場所でした。

コーチーズとバスコム事件

チリカウア族の首長コーチーズは、部族民からの尊敬を集める有力者でした。しかし、1861年、バスコム少尉率いる米軍部隊がコーチーズを不当に拘束しようとした「バスコム事件」が起こりました。バスコムは、アパッチ族が白人の牧場から少年を誘拐したと決めつけ、コーチーズを詰問しました。コーチーズは拘束から逃れましたが、バスコムはコーチーズの家族を人質にしました。コーチーズは怒り、米軍の兵士を殺害し、人質を取って報復しました。この事件は、その後11年間にわたるアパッチとアメリカ軍の激しい戦いの引き金となりました。

1861年後半、マンガス・コロラダスとコーチーズは同盟を結び、アパッチの領土から白人を追い出すことを誓いました。「バスコム事件」から2ヶ月足らずの間に、コーチーズらは各地で襲撃を行い、多くの白人入植者を殺害したとされています。南北戦争勃発により、駅馬車中継所が閉鎖され米軍が去ったため、多くのインディアン部族は、コーチーズらが彼らの土地から白人を追い払ったと考えるようになりました。

マンガス・コロラダスの死

ミンブレス・アパッチの首長マンガス・コロラダスは、温厚な人物でしたが、白人入植者の侵略に苦しんでいました。1862年、アパッチ峠の戦いで胸を負傷しました。1863年1月、マンガス・コロラダスは白人と和睦を図るために、休戦の白旗を掲げて金鉱町を訪れましたが、ウェスト准将に捕縛され、虐殺されました。この事件は、アパッチ族と侵略者の戦いをさらに激化させることになりました。

ナバホ族の強制移住

1863年夏、アメリカ合衆国はナバホ族の殲滅を命じ、キット・カーソンによる焦土作戦によって、ナバホ族はサムナー砦の収容所ボスク・ルドンドへ強制移住させられました。この「ロング・ウォーク・オブ・ナバホ」と呼ばれる悲劇的な出来事で、多くのナバホ族が命を落としました。

コーチーズの晩年と死

1872年、コーチーズはハワード将軍との和平協定を結び、チリカウア族の指定保留地を確保しました。コーチーズは、白人とインディアンが仲良くすべきだと説きました。1874年、コーチーズは病に倒れ、51歳で亡くなりました。彼の死後、平和な時代が訪れましたが、その後ジェロニモによる抵抗が始まりました。

ジェロニモの抵抗

1876年、チリカウアの保留地が解消され、アパッチ族はサンカルロス保留地へ強制移住させられました。これに反発したジェロニモは、メキシコに逃亡し、抵抗を続けました。1881年、サンカルロス保留地で呪い師の教えが広まり、アパッチ族は再び立ち上がりました。ジェロニモは再び逃亡し、ゲリラ戦を展開しました。

1883年、クルック将軍はインディアン斥候と共にメキシコに遠征し、ジェロニモと会談しました。ジェロニモは一時的に保留地に戻りましたが、1885年に再び逃亡しました。クルックは辞任し、マイルズ准将が後任となりました。

マイルズは大規模な捜索作戦を展開し、ジェロニモを追い詰めました。1886年9月、ゲートウッド中尉がジェロニモと会談し、降伏を促しました。ジェロニモは降伏しましたが、フロリダ州のピケンズ砦に強制収監されました。降伏から8年後の1894年、生き残ったチリカウアの抵抗者はシル砦に送られましたが、そこで多くの者が亡くなりました。ジェロニモは降伏しましたが、白人侵略者たちは、彼と38人のアパッチ族を捕らえるために、5000人の兵力を必要としたのです。

アパッチ戦争の終焉

アパッチ戦争は、先住民の土地と文化を奪い、彼らの社会を破壊した悲劇的な出来事でした。アパッチ族の子供たちは、同化政策のもとで学校に連れて行かれ、伝統的な生活を奪われました。この戦争は、アメリカの歴史における暗い一面として、記憶されるべきものです。

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