ロング・ウォーク・オブ・ナバホ

ロング・ウォーク・オブ・ナバホ：民族浄化の歴史

ロング・ウォーク・オブ・ナバホ、または「ボスク・レドンドへの長旅」とは、1864年にアメリカ合衆国政府がナバホ族に対して行った強制移住政策であり、民族浄化の一環とされています。ナバホ族は、故郷から遠く離れたニューメキシコ州南東部の強制収容所まで、20日以上にも及ぶ過酷な旅を強いられました。

背景

ナバホ族は、元々カナダ北西部の森林地帯で狩猟採集生活を送っていました。10世紀頃にアメリカ南西部に移住し、アリゾナ北東部とニューメキシコ西部の、4つの神聖な山々に囲まれた地域（ナバホ語でディネタ）に定住しました。時代が下ると、キャニオン・デ・シェイなどの肥沃な谷底で、スペイン人から伝わった農耕や牧畜を営むようになりました。

アメリカ南西部の先住民部族間では、スペイン人、メキシコ人、プエブロ族、アパッチ族、コマンチ族などとの間で、略奪や襲撃が繰り返されていました。1846年からは、アメリカ合衆国の白人入植者もこの争いに加わることとなります。近隣準州の知事たちは、アパッチ族やナバホ族の頭皮に対して懸賞金をかけ、彼らを迫害しました。

合衆国政府は、西部への植民地拡大の障害となる先住民部族に対し、トーマス・ジェファーソン大統領時代から、年金（食料や物資）の配給と引き換えに、指定保留地への定住を促す和平条約を締結していました。しかし、南北戦争の機運が高まると、条約で約束された食料配給はおざなりになり、事実上放置されました。

条約違反と武力弾圧

多くの先住民部族と同様に、ナバホ族も条約違反に抗議しました。これに対し、合衆国陸軍は武力弾圧を行い、しばしば軍事衝突（インディアン戦争）が起こりました。ロング・ウォーク以前のアメリカ合衆国とナバホ族との間の戦闘は、1849年にナバホ族で尊敬を集めていた戦士ナーボナが米軍に殺害されたことで激化しました。

先住民社会には、白人が考えるような絶対的な指導者や部族長はいません。戦士たちは個人の集団であり、誰かの統率下で動くわけではありません。しかし、白人たちは部族長を「大指導者」と誤解し、彼らと条約を結ぶことで部族を従わせようとしました。しかし、部族長はあくまで合議制における調停者であり、彼らと結んだ条約は、部族全体の総意とはなり得ませんでした。

合衆国政府は、1846年から1863年の間に、部族長の署名（×印）を基に数多くの和平条約を結びましたが、戦士たちの抵抗はやみませんでした。そのため、条約は結ばれては破棄されるという状態が繰り返されました。

1858年7月、士官の使用人がナバホ族に殺害された事件をきっかけに、事態は深刻化しました。1860年4月30日には、マヌエリト率いる1000人のナバホ戦士が、士官が駐屯するディファイアンス砦を攻撃しました。ナバホ族は、条約に反して食料も代替土地も与えない合衆国政府に怒っていたのです。

1861年2月15日、新たな条約が締結されましたが、その直後、マヌエル・チャベス中佐が、南北戦争の混乱に乗じて400名の兵士とともにナバホ族の領土を荒らし回りました。1862年までには、合衆国軍は陸軍を当地から撤退させましたが、再びナバホ族の土地に着目し、連邦地域の武力支配を計画しました。

強制移住計画とキット・カーソンの大地荒廃作戦

合衆国政府の「ナバホ族を強制移住させる」という計画は、当初エドワード・キャンビー将軍によって立案され、ジェームス・H・カールトン准将がその実行を命じられました。カールトンはナバホ族の土地に金鉱があると考えており、「この戦いは、お前たちが存在するか、動くのをやめるまで何年でも続く」と宣言しました。

カールトン准将は、対ナバホ作戦の指揮官として、インディアン戦の経験豊富なキット・カーソン大佐を送り込みました。カーソンはナバホ族の部族長たちを集め、「降伏か、皆殺しか」という二者択一を迫りました。ナバホ族は合議の末、白人との戦いを選びました。

先住民の戦法に精通していたカーソンは、正攻法の戦いを避け、兵糧攻めによる大地荒廃作戦を実行しました。「ニューメキシコ義勇軍第一騎兵隊」を率いてナバホ族のトウモロコシ畑、小麦畑、果樹を焼き尽くし、馬やラバ、羊、ヤギを奪い、家屋を放火しました。1863年7月20日、土地を焼き払われ飢餓に追い込まれたナバホ族は降伏し、カーソンの本拠地であるディファイアンス砦に連行されました。この時、一部のナバホ族は合衆国への降伏を拒否し、グランドキャニオンやナバホ山、チリカウア・アパッチ族の領土、ユタ州の一部へと逃げました。

ロング・ウォークの始まり

1864年1月、ナバホ族8500人は、300マイル離れた東にあるアパッチ族の強制収容所への移送を命じられました。ニューメキシコ州はアパッチ族とナバホ族の抗争に悩まされており、敵対関係にあるアパッチ族と同じ収容所に同居させるという異常な計画でした。

米軍によって、ナバホ族はアリゾナ準州東部とニューメキシコ準州西部の伝統的な土地から、ペコス川流域のサムナー砦（ボスク・レドンド、ナバホ語でHwééldi）へと移動を強制されました。

「ロング・ウォーク」は1863年3月に始まりました。コースはほぼ全域が高地砂漠地帯で、アルバカーキの北でリオグランデ川を越えると、すぐに3000m近い高さのサングレ・デ・クリスト山地が迫ります。山を越えるとペコス川沿いに進むという過酷な道のりでした。

それぞれの集団で投降時期が異なっていたため、複数のグループに分かれて出発しました。大地荒廃作戦によって食料不足に陥り、寒さをしのぐ衣服にも事欠く状態で、収容されていた砦で出発前に100人以上が命を落としていました。500kmの長旅で少なくとも200名が死亡しましたが、そのほとんどが子供や老人でした。夜間には米軍士官が見張りを立てていましたが、メキシコ人によって子供が誘拐される事件も起きました。

こうして、約9000名のナバホ族が、104km²の領域に強制的に定住させられました。1865年春のピーク時には、9022名のナバホ族が強制収容されました。収容所は不毛の地で、テントすらありませんでした。収容された人々は、灼熱の大地に穴を掘って身を守るしかありませんでした。しかし、カールトンはワシントン陸軍省の上官に対し、「立派な保留地で、ナバホ族は幸福に富み栄えるインディアンになれる」と報告していました。

1865年にはバルボンシートらがボスク・レドンドから脱走しましたが、1866年9月にマニュエリートが投降した直後に再投降しました。カールトンは、ボスク・レドンドにおける劣悪な待遇を知ったニューメキシコ住民から批判され、マニュエリート降伏から1ヶ月も経たないうちに、ニューメキシコ駐屯軍司令官を解任されました。

ボスク・レドンドの悲劇

ボスク・レドンドは、合衆国政府による先住民部族の強制移住の例に漏れず、深刻な問題を抱えていました。ここには、約400名のメスカレロ・アパッチ族が先に収容されていましたが、ナバホ族とメスカレロ・アパッチ族は長年の宿敵同士でした。

当初の計画では、収容所の収容予定数は5000名でしたが、実際には9000名まで膨れ上がり、水と薪の供給不足は深刻な問題でした。アパッチ族は農業文化を持たない略奪部族であり、農業の強制は事実上の強制労働でした。毎年のように、人災や天災によって作物の栽培に失敗しました。コマンチ族は定期的に彼らを襲撃し、白人居住者たちも食料を奪いに来るコマンチ族に悩まされました。ボスク・レドンドでは、ナバホ族は強制労働を課せられ、乳幼児のほとんどが、過酷な環境下で死亡しました。

ボスク・レドンド条約とロング・ウォークの終わり

1867年7月、ナバホ族の部族長は合衆国政府の役人にこう訴えました。「頭に浮かぶのは故郷のことばかりだ。なんとか政府の力で元の地に戻してほしい。暑さの中、寒さの中でひたすら働いて、全てが無駄だった。これ以上何をすれば良いのだ」

1868年5月、ウィリアム・シャーマン将軍がこの収容所を訪れました。将軍は、ナバホ族にオクラホマの保留地への移住を勧めましたが、ナバホ族は断固として拒否しました。

バルボンチート部族長は、こう窮状を訴えました。「私たちの先祖は、自分たちの土地以外に住むことを考えたこともなかった。それを捨てることはあってはならない。ここで作物を植えたが、何も育たない。飼っていた動物は全て死に、残ったのは麻袋だけだ。昼間はそれを着て、夜はそれを被って寝ている。食べるものは何もなく、みんなが死んでいくのをただ見ているだけだ」

1868年6月1日、アメリカ合衆国政府はついに強制収容の誤りを認め、マニュエリートとバルボンチートの調印によって、「ボスク・レドンド条約」が締結されました。条項には、ナバホ族が先祖伝来の土地に戻ること、そこを保留地として年金補給基地である「インディアン管理所」を設立すること、ナバホ族の児童の義務教育、穀物種子と農作機械の支給、鉄道と米軍の砦の設立などが盛り込まれました。

この和平条約が締結されるまでに、2000人以上のナバホ族が亡くなりました。合衆国政府は、ナバホ族の強制移住という「実験」は「失敗だった」と宣言しました。6月18日、ナバホ族は故郷への5週間にわたる帰還の旅に就きました。

バルボンチートは部族を代表して、「自分たちの国に戻れば、きっと私たちは元気になる。ナバホ族もナバホ族の土地も幸せになれるだろう。黒い雨雲が湧き、トウモロコシが育つように、たくさんの雨を降らせてくれるだろう。豊かな実りは私たちを幸せにするだろう」と語り、1871年に亡くなりました。

一度は散り散りになったナバホ族は、再びまとまり、ロング・ウォークの後には最もまとまった部族となりました。しかし、帰還した土地には、すでに隣接するホピ族が定住しており、両部族間で土地を巡る争いが起こりました。この問題は100年以上経った現在でも解決せず、両部族の対立を招いています。

参考文献

『BURY MY HEART AT WOUNDED KNEE』(Dee Brown, New York: Holt, Rinehart, Winston, 1970)
ディー・ブラウン『我が魂を聖地に埋めよ』《上》草思社〈草思社文庫〉、2013年。ISBN 978-4-7942-1951-0
ディー・ブラウン『我が魂を聖地に埋めよ』《下》草思社〈草思社文庫〉、2013年。ISBN 978-4-7942-1952-7
『AMERICAN HOLOCAUST: THE CONQUEST OF THE NEW WORLD』(David Stannard, Oxford University Press, 1992)

関連項目

領土問題
ホロコースト
アパルトヘイト
植民地主義

外部リンク

* ニューメキシコ州の歴史：ロング・ウォーク（英語）

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