アピシット・ウェーチャチーワ

アピシット・ウェーチャチーワ：イギリス育ちのエリート政治家から首相へ、そして波乱の軌跡

アピシット・ウェーチャチーワは、タイ王国の政治史において重要な役割を果たした人物です。2008年から2011年まで首相を務め、その在任期間は国内外で多くの出来事や論争を生み出しました。彼の経歴、政治活動、そしてその後の展開を詳しく見ていきましょう。

華僑のエリートコース：イギリスでの教育と帰国後のキャリア

1964年、イギリスのニューカッスル・アポン・タインで生まれたアピシットは、客家系華人の家庭に生まれました。両親は医師というエリート家庭で育ち、1歳でタイへ帰国した後、1976年に再びイギリスへ渡り、名門イートン・カレッジを経てオックスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジで哲学、政治学、経済学（PPE）を専攻、最優等で卒業するという輝かしい経歴を築きました。

オックスフォード大学卒業後、タイへ帰国し、陸軍士官学校の教官を務めた後、再びオックスフォード大学へ戻り経済学の修士号を取得。その後はタマサート大学経済学部講師として教鞭を執るなど、学術分野でも活躍しました。さらに、ラームカムヘン大学でも法学士号を取得しています。この経歴からも、アピシットが持つ高い知性と国際的な視点が伺えます。

政治家としての歩み：民主党での活躍と首相への道

1992年、アピシットは民主党から下院議員選挙に出馬し、当選を果たしました。民主党政権下では、首相府報道官や首相秘書官などを歴任し、政治の中枢で経験を積みました。1997年には首相府大臣に就任。着実にキャリアを重ね、1999年には民主党副党首に、そして2005年には党首に就任しました。

2008年、与党であったタクシン・シナワット元首相派の政党が解党されたことを受けて、アピシットは首相選出選挙で勝利し、タイ王国首相に就任しました。この就任は、政情不安定なタイにおいて大きな転換期となりました。

首相在任中の政策と批判：強硬外交とデモ鎮圧

アピシット首相は、中産階級への配慮を示す政策を掲げつつも、強硬な外交政策や国内の反政府勢力への強硬な姿勢で知られていました。特に、カンボジアとの領土紛争において武力衝突を引き起こしたことは、大きな批判を招きました。また、2010年の反政府デモに対する国軍の投入は、多くの死傷者を出したことで、国際社会からも強い非難を浴びることになりました。

このデモ鎮圧において、アピシットは治安部隊への発砲許可に関与したとして、殺人罪で訴追されました。しかし、裁判では一審、二審、そして最高裁で無罪判決が下され、最終的に無罪が確定しました。

退任後：政界での活動と議員辞職

2011年の総選挙で敗北し首相を退任した後も、アピシットは民主党党首として政界活動を続けました。しかし、2019年の総選挙での敗北を機に党首を辞任、さらに、民主党が親軍政党と連立政権を組んだことに抗議し、議員も辞職しました。

まとめ：複雑なレガシー

アピシット・ウェーチャチーワの政治家としてのキャリアは、エリートコースを歩んだ華僑出身者から首相に上り詰めた成功物語である一方、強硬な政策とそれによる多くの犠牲者という暗い影も伴います。彼の政治的遺産は、今でもタイ社会で議論の的となっています。彼の行動や決断が、タイの政治、社会、そして国際関係に与えた影響は、長期的にわたって分析され続けるでしょう。

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