アフガン難民

アフガン難民とは

アフガン難民とは、アフガニスタンにおける紛争や政情不安などを避けるため、国外へ避難した人々のことを指します。2014年時点では、主にイランやパキスタンといった周辺国に259万人もの難民が居住しており、その数は世界で2番目に多いとされています。

アフガニスタン国内に留まっている国内避難民も存在しますが、一般的には国外へ避難した人々を「アフガン難民」と呼ぶことが多いです。

アフガン難民発生の経緯

ソ連軍の侵攻

アフガン難民が最初に大きな問題となったのは、1979年12月のソ連軍によるアフガニスタン侵攻です。この侵攻により約60万人の難民が発生し、1990年までにはパキスタンへ330万人、イランへ300万人が避難しました。

欧米各国は、パキスタンにおけるアフガン難民の支援のために、1979年から約20年間で10億ドル以上の資金を提供しました。パキスタン国内には、シャムシャトゥ・キャンプやジャロザイ・キャンプといった大規模な難民キャンプが多数建設されました。

これらの難民キャンプは、ソ連に対するイスラム抵抗組織「ムジャーヒディーン」の拠点としても機能し、キャンプ内に設けられたイスラム教の学校であるマドラサからは、多くのターリバーン兵士が輩出されました。

一方、イランにもトルバテジャム難民キャンプやニアタック難民キャンプといった難民キャンプが建設されましたが、1979年のイラン革命の影響で、欧米からの資金援助は1.5億ドルに留まりました。イランは1980年からイラン・イラク戦争が始まりましたが、難民の受け入れは継続されました。

内戦時代

1992年に人民民主党政権が崩壊した後、アフガニスタンでは約10年間内戦が続きました。1990年時点では、パキスタンとイランに630万人の難民がいましたが、1992年にはパキスタンから127万人、1993年にはイランから60万人の難民が帰還し、2001年までに合計460万人が帰還しました。

2000年代前半

2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生し、多国籍軍がアフガニスタンへ侵攻しました。当時、パキスタンには200万人、イランには150万人、その他の周辺諸国には46万人の難民がおり、国内避難民も96万人存在していました。新たな戦乱により、年末までにパキスタンへ500万人、イランへ240万人に難民が増加しました。

アフガン難民は世界各地に保護を求め、2001年の難民申請者数は5万人を超えました。同年8月には、難民船がオーストラリアに受け入れを迫る事件が発生し、日本に対しても78人が難民申請を行いました。

国連は、同年11月14日に国際連合安全保障理事会決議1378を採択し、難民の帰還促進支援を行うことを決定しました。2002年1月には、東京でアフガン復興支援国際会議が開催され、難民・避難民の再定住などに対して資金援助を行うことが決定されました。日本は2011年末までにアフガニスタンに対して総額約33億ドルの資金援助を行いました。

しかし、日本はアフガン難民の受け入れには消極的であり、1999年からの3年間で132人のアフガン難民が難民申請を行ったにもかかわらず、難民認定したのは9人にとどまりました。在留特別許可に関しても同様に厳しく、1999年からの3年間で17人しか受けることができませんでした。

アフガン難民の中には、難民不認定処分の取り消しを求めて訴訟を起こす人もいましたが、その道のりは困難でした。2002年8月には、在留特別許可で日本に滞在していたアフガン難民の男性が、妻子の空爆死を知り、絶望のあまり自殺するという痛ましい事件も発生しました。

その後、2003年までにパキスタンから約190万人のアフガン難民が帰還しました。2004年、パキスタン政府は治安上の理由から難民キャンプの閉鎖を開始し、同年3月にはシャルマン難民キャンプ、7月にはスピンボルダック国内避難民キャンプが閉鎖されました。イランでもサルヴェスタン難民キャンプが閉鎖されました。日本政府も、日本人との婚姻関係にあるなど特別な事情がある6人のアフガニスタン人に在留特別許可を出したのみで、難民受け入れに対する消極的な姿勢は変わりませんでした。2006年までにパキスタンから約270万人のアフガン難民が帰還しました。

2000年代後半

2006年時点で、パキスタンには260万人、イランには92万人のアフガン難民が残っていました。2007年にパキスタンから帰還したアフガン難民は35万人でしたが、その多くはパキスタンの北西辺境州から隣接するナンガルハール州に帰還するというような短距離の移動でした。

パキスタンは難民の地位に関する条約に加盟していないため、難民の人権は十分に保障されていません。教育を受ける機会が与えられず、低賃金の肉体労働を強いられる難民も多く存在します。しかし、アフガニスタンの治安状況や帰還後の生活に対する不安、既にパキスタンに生活基盤があるといった理由から、2007年時点でも約200万人の難民がパキスタンに留まっていました。

一方、イランは難民に対して比較的寛容な態度をとっており、正規の難民であれば大学へ進学することも可能でした。しかし、難民だけでなく経済的な目的で移住してくる人々や、麻薬・兵器の密輸業者などが流入してくることに対しては、不満を抱いていました。

日本政府は、アフガン難民の受け入れには引き続き消極的な姿勢を崩さず、人道的配慮から2005年に4人、2006年に1人、2007年と2009年に3人ずつの在留を認めたのみでした。しかし、日本には全くアフガニスタン人がいないわけではなく、2006年時点で646人の在日アフガニスタン人がおり、居住地のトップ5は千葉県、愛知県、東京都、北海道、茨城県と埼玉県でした。

アフガン難民の難民申請数は、2001年から2003年まで急激に減少しましたが、2008年から2009年にかけて再び急増し、約3万件に達しました。

2010年代前半

2002年から2011年までの間に、イランやパキスタンから帰還したアフガン難民は550万人以上に達し、これは当時のアフガニスタンの人口の約2割を占めていました。しかし、2011年時点でも約266万人のアフガン難民が存在し、イラク難民を上回り、世界で最も多い難民となっていました。

2010年には11万人、2011年には5万人のアフガン難民がパキスタンから帰還しましたが、帰還のペースは徐々に鈍化しています。2012年時点では、イランに100万人以上、パキスタンに170万人のアフガン難民が居住しており、都市部や難民キャンプで生活を送っていました。

イランに居住する難民の多くは都市部に住んでいますが、インフレや政府からの交付金停止などの影響で生活は困窮しており、移動の自由が制限され、低賃金の肉体労働を強いられるなど、不自由な生活を送っていると言われています。

2011年、国連難民高等弁務官事務所は、イランの内務省外国人移民管理局と共同で医療保険制度を設立し、難民に対する医療支援を充実させました。また、日本の援助などにより、難民のための学校が建設されました。

一方、パキスタンでは難民の約4割が難民キャンプで生活しており、治安悪化の原因とみなされています。国連難民高等弁務官事務所は、地元対策として難民受け入れ地域支援プログラムを実施していますが、パキスタン政府は難民登録と身分証明書の発行を進め、ビザの延長を停止するなど、不法移民の国外退去を促しています。

2012年7月には、東京でアフガニスタンに関する東京会合が開催され、日本政府も資金援助を継続することを決定しました。しかし、2014年のアフガン難民の数は259万人に達し、シリア難民に次いで世界で2番目に多い難民となっています。

アフガン難民はユーラシア大陸を越えて遠くまで避難する傾向があり、2014年にヨーロッパへ不法入国したアフガン難民は約2万人に達し、全体の4位を占めています。その結果、難民申請数は2012年に約5万件、2014年には約6万件に及んでいます。

2010年代後半

現在でも、パキスタンには約150万人のアフガン難民が居住しています。イランには、登録難民が95万人、不法入国者を含めると250万人以上の難民がいると言われています。

2015年には、ヨーロッパへアフリカや中東から56万人の難民が押し寄せ、国際的な問題となりましたが、そのうち20%以上がアフガン難民でした。同年10月には、陸路でドイツやスイスを目指していたアフガン難民がブルガリアで国境警備隊に射殺されるという事件も発生しました。

アフガン難民の中には、経済的な目的で避難してくる人々も多く存在すると言われており、命がけでヨーロッパを目指したにもかかわらず、本国送還の対象となるケースも出ています。

ヨーロッパへ向かっている難民の中には、タリバンから敵視されている警察官の子弟や、イランで不自由な生活を送っているアフガン難民、さらには現役の州知事まで、様々な人々が含まれています。

2015年、イラン政府は不法移民に対しても正規の学校教育を提供することを決定しました。

一方、2015年6月現在の在日アフガニスタン人は2323人で、居住地のトップ5は千葉県、愛知県、茨城県、東京都、福岡県となっています。

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