アフマド・イブン・ファドラーン

アフマド・イブン・ファドラーンとは

アフマド・イブン・ファドラーン・イブン・アル=アッバース・イブン・ラーシド・イブン・ハンマードは、10世紀にアッバース朝カリフがヴォルガ・ブルガールへ派遣した使節団に同行したアラブ人旅行家です。彼の旅行記は、ヴォルガ川流域のヴァリャーグ（ルーシ）に関する貴重な記録として知られています。特に、船葬の儀式の目撃に関する記述は有名です。

写本の伝承

彼の報告書は長らく不完全な形でしか知られていませんでした。しかし、1923年にテュルク系学者のゼキ・ヴェリディ・トガンが、イランのマシュハドにある図書館で写本を発見しました。このMS 5229写本は13世紀に遡り、地理的な論文に加えて、イブン・ファドラーンのテキストのより完全な版を含んでいます。

使節団の目的と旅

イブン・ファドラーンは、921年にバグダードからヴォルガ・ブルガールの首長アルムシュへの使節団の書記として派遣されました。使節団の目的は、ブルガール王に貢納をカリフに払わせ、見返りに要塞建設費を渡すことでした。しかし、王のための資金を集めることができず、任務は失敗に終わりました。

使節団はバグダードを出発し、ブハラやホラズムを経由してヴォルガ・ブルガールへ向かいました。旅の途中ではオグズ族の襲撃を受けましたが、買収によって難を逃れました。イランのゴルガーンで冬を越し、ウラル川を渡ってヴォルガ川流域のブルガールへ到着しました。

ルース（ヴァイキング）に関する記述

イブン・ファドラーンの報告書の中で特に重要なのは、「ルース」または「ルーシーヤ」と呼ばれる人々に関する記述です。多くの学者は、この「ルース」をヴァイキングと同一視しており、イブン・ファドラーンの記述はヴァイキングに関する最も初期の記録の一つとされています。

彼は、ルースをボルガルの宿営地近くで交易を行う人々として描写しています。彼らは背が高く、金髪で赤ら顔をしており、全身に刺青を施し、斧や長ナイフで武装していました。イブン・ファドラーンは、彼らの肉体的特徴を高く評価する一方で、衛生観念を批判し、野蛮で洗練されていないと見なしました。また、族長の葬儀（人身御供を含む船葬）について詳細に記述しています。

フィクションへの影響

イブン・ファドラーンの報告書の要素は、マイケル・クライトンの小説『北人伝説』に取り入れられています。この小説は、映画『13ウォーリアーズ』の原作となり、アントニオ・バンデラスがイブン・ファドラーンを演じました。

また、2007年にはアラビア語のTVシリーズ『世界の屋根』が制作され、現代の視点からイブン・ファドラーンの旅が描かれました。

まとめ

アフマド・イブン・ファドラーンの旅行記は、10世紀のヴォルガ川流域の社会や文化、特にヴァイキング（ルース）に関する貴重な情報源です。彼の記録は、歴史学や文化人類学の研究において重要な役割を果たしています。

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