オグズ

オグズ：シルクロードを歩んだ遊牧民とイスラーム王朝の興隆

オグズ（Oghuz）は、中央アジア北部を拠点としたテュルク系遊牧民族です。ステップロードを移動する他のテュルク系民族とは異なり、シルクロード沿いを移動したことで知られています。10世紀以降は南下し、トゥルクマーンと呼ばれるようになり、その勢力は西アジアにまで及び、セルジューク朝を始めとする多くのイスラーム王朝を築きました。

名称の多様性と起源

オグズを表す名称は史料によって異なり、「グッズ」「グオッズ」「オグズ」「トゥルクマーン」「ウグズ」など、多様な表記が見られます。これらの名称には、ムスリムか否か、セルジューク朝に従うか否かといった差異が反映されている場合があります。「オグズ」という名称は、神話上の英雄オグズ・カガンに由来するとされています。オグズの移動範囲は広く、モンゴル高原から中央アジア、イラン、コーカサス地方、アナトリア高原、バルカン半島などにまで及びました。

24氏族の社会構造

オグズの社会構造は、複数の氏族から構成されていました。マフムード・カーシュガリーの『テュルク諸語集成』では22氏族、ラシードゥッディーンの『集史』では24氏族が挙げられています。これらの氏族は、オグズ・カガンの子孫から生まれたとされる6人の息子、そしてその息子たちを祖とする家系に由来するとされています。それぞれの氏族には固有の名称があり、『集史』ではボズ・オクラル、クン・カン、カイ、バヤトなど、具体的な氏族名が列挙されています。これらの氏族間の関係や、社会における役割分担など、詳細な情報は史料によって異なっており、さらなる研究が必要です。

カーシュガリーの記録とオグズの生活

11世紀の学者、マフムード・カーシュガリーは『テュルク諸語集成』において、オグズ部族について詳細な記録を残しています。この書物では、オグズ部族が22の氏族に細分化されていたこと、そして家畜の識別のために用いられたタムガ（家紋のような印）についても記されています。これらの記述から、オグズ部族の社会構造や生活様式の一端を知ることができます。カーシュガリーはオグズ部族をペチェネグ、キプチャクに次ぐ勢力として位置づけています。

トゥルクマーンとイスラーム王朝

オグズはイスラームを受け入れる過程でトゥルクマーンと呼ばれるようになりました。11世紀以降、彼らは西アジアにおいて政治的に重要な役割を果たし、多くのイスラーム王朝を興しました。セルジューク朝、オスマン朝、アクコユンル朝（白羊朝）、カラコユンル朝（黒羊朝）など、歴史に名を残す王朝は、オグズの氏族を起源としています。これらの王朝は、政治、文化、経済など、西アジアの歴史に大きな影響を与えました。

セルジューク朝の興隆：オグズからイスラーム世界への躍進

セルジューク朝は、オグズ連合部族のクヌク氏から台頭したセルジュークを祖とする王朝です。彼らは10世紀半ばにシル川以北から南下し、イスラームを受け入れました。その後、カラハン朝やガズナ朝との抗争を経て勢力を拡大し、1055年にはバグダードを征服し、カリフからスルターンの称号を授与されました。セルジューク朝の興隆は、オグズがイスラーム世界に深く関与するようになった転換点となりました。ガズナ朝の衰退と、セルジューク家の台頭を背景に、トゥグリル・ベクはトゥルクマーン勢力を統合し、ホラーサーン地方を制圧。その後のバグダード制圧により、セルジューク朝は中東における大帝国へと成長しました。

オグズの言語と文化

オグズの言語はテュルク語であったと推測され、現代のトルコ語はその子孫にあたります。また、『王書（シャー・ナーメ）』『デデ・コルクトの書』『オグズ・ナーメ』『キョルオウル』など、オグズに関連する叙事詩が数多く存在し、彼らの歴史や文化を伝える貴重な資料となっています。これらの叙事詩には、英雄譚や神話、歴史的事実などが織り込まれており、オグズ民族の精神文化を理解する上で重要な役割を果たしています。

結論

オグズは、シルクロードを移動し、イスラーム世界に大きな影響を与えた中央アジアの遊牧民族です。その社会構造、イスラーム王朝建設、言語、文化など、様々な側面から、オグズの歴史と文化を探求することで、中央アジア史、イスラーム史、トルコ史への理解を深めることができるでしょう。今後の研究によって、オグズに関するさらなる知見が得られることが期待されます。

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