ヴァリャーグ

ヴァリャーグ：東欧を震撼させたスカンディナヴィア人

ヴァリャーグとは、東スラヴ人が呼んだ、スカンディナヴィアを起源とするヴァイキング（ノルマン人）を指す呼称です。古東スラヴ語、ギリシア語、古ノルド語など複数の言語で表記され、その多様な呼称は、彼らの広範囲に及んだ活動の痕跡を示しています。現代の解釈では、主にスウェーデンやデンマークに居住していたゲルマン系民族の一派とされていますが、その民族系統は必ずしも明確に解明されているわけではありません。

彼らの活動は、主に9世紀から11世紀にかけて活発に行われました。東スラヴ人の地へと到来したヴァリャーグは、傭兵、海賊、商人として活躍し、東スラヴ社会に大きな影響を与えました。特に注目すべきは、ルーシ国家の形成における彼らの役割です。

『ルーシ原初[[年代記]]』などによると、ヴァリャーグは海の向こうから到来し、ルーシ国家の建設に携わったと記されています。彼らを支配者として迎え入れたという説が広く信じられていますが、ルーシ国家の成立過程については、建国者であるルーシ族の出自を巡って今もなお議論が続けられています。この論争は、ノルマン説と反ノルマン説に大きく分かれます。

ソ連時代の研究では、ヴァリャーグはスカンディナヴィア人だけでなく、その他のゲルマン人も含むと解釈されていましたが、物的証拠の不足から、彼らの正確な出自や民族構成は未だ謎に包まれています。

ヴァリャーグは、東スラヴ社会に定着し、徐々に同化していきました。商業活動に秀でていた彼らは、陸上交通網「ヴァリャーギからギリシアへの道」の建設にも関与しました。この交易路は、バルト海から黒海に至る経済網として機能し、ヴォルガ川を経由したカスピ海へのルート開拓により、イスラム世界との交易も盛んになりました。

彼らの経済活動は、キエフ大公国の繁栄の基礎を築き、ルーシという大国家の形成に大きな貢献を果たしました。スウェーデンとの繋がりも維持し、北欧と地中海世界、イスラム世界を繋ぐ仲介役も担っていました。ヴァリャーグの勢力が衰えた後も、キエフ大公国はスウェーデンなどからノルマン人の傭兵を受け入れ続けるなど、北欧と東欧の連携は続いていました。

キエフ大公国における従士団（ハスカール）には、スカンディナヴィア出身者が多く、キエフ大公ウラジーミル1世はスウェーデンで兵士を調達したと伝えられています。ウラジーミル1世は、ヴァリャーグ人の時代を象徴する最後の君主であり、スウェーデンから来たヴァリャーグをヴァラング隊として東ローマ帝国に輸出しました。彼の治世の後、キエフ大公国はキリスト教化され、ヴァリャーグ人の時代は終焉を迎えました。

ヴァリャーグの活動は、年代記などの記録に加え、スウェーデン国内外で発見されたルーン石碑からも裏付けられています。これらの石碑には、ヴァリャーグたちの東方への移動や活動の様子が刻まれており、彼らの歴史を解き明かす貴重な手がかりとなっています。しかし、彼らがバルト地方を支配したという北欧の伝承「サガ」の記述については、その信憑性をめぐる議論も依然として存在します。

反ノルマン説のように、ルーシ国家の成立におけるヴァリャーグの役割を否定する見解もありますが、考古学的調査や歴史研究の進展により、ルーシ国家の形成にヴァリャーグが何らかの形で関与していたことは事実として広く受け入れられています。彼らの活動は、東スラヴ人の視点から記録されているため、征服者としての側面も否定できませんが、東欧の歴史において、ヴァリャーグは無視できない重要な役割を果たした民族であったと言えるでしょう。

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