アフマド・シャー・マスード

アフマド・シャー・マスード（1953年 9月2日 - 2001年 9月9日）は、アフガニスタンの軍人、政治家であり、「パンジシールの獅子」として知られる人物です。彼はアフガニスタン・イスラム国国防大臣、軍司令官、アフガニスタン救国・民族イスラム統一戦線（北部同盟）副大統領、国防大臣、軍司令官を歴任し、その功績から死後「アフガニスタン国家英雄」の称号を贈られました。

生涯

青年期

マスードは、パンジシール渓谷のジュンガラック村で、王国陸軍大佐の三男として生まれました。カーブルの貴族高等中学校「リセ・エステクラール」でフランス語による教育を受け、その後カーブル工業大学に進学しました。しかし、ソ連によるアフガニスタンの衛星国化が進む中でイスラムの抑圧が強まったため、学業を断念し帰郷。1974年には、クーデター失敗後の新政権の弾圧を恐れてパキスタンに移住し、ブルハーヌッディーン・ラッバーニーが設立したイスラム主義政党「ジャマーアテ・イスラーミー」に参加しました。この頃から、同志名として「幸運なる者」を意味するマスードを名乗るようになります。

パンジシールの獅子

1975年に帰国後、パンジシール渓谷を拠点として活動を開始。1979年のソ連のアフガニスタン侵攻後は、反ソ連ゲリラの司令官としてソ連軍に度重なる打撃を与え、その勇敢さから「パンジシールの獅子」と呼ばれるようになりました。ソ連軍の大規模攻撃も撃退し、1988年のソ連軍撤退時には、ソ連軍捕虜を自発的に解放し、撤退を妨害しないことを約束しました。この行動はソ連側の心証を良くし、後にロシアが北部同盟を支援する動機の一つとなりました。

1992年にムジャーヒディーン勢力がカーブルを占領し、ラッバーニー政権が誕生すると、マスードは国防相、政府軍司令官に就任。しかし、ラッバーニー政権が崩壊し、ターリバーンが勢力を拡大すると、ターリバーンに対抗する北部同盟の副大統領、軍総司令官、国防相として活躍しました。ターリバーンがアフガニスタンを支配する中、北部同盟の勢力圏はアフガニスタン北部山岳地帯に限られましたが、国土の約10%、人口の約30%を掌握していました。

暗殺

北部同盟の中枢人物として活動していたマスードですが、2001年 9月9日、自爆テロにより暗殺されました。この暗殺は、アメリカ同時多発テロ事件の2日前に発生したため、世界中に衝撃を与えました。暗殺者はアラブ系の2人で、ジャーナリストを装って接近し、ビデオカメラやベルトに隠された爆弾を爆発させたものと見られています。遺体は故郷のジュンガラック村を見渡せる丘に埋葬され、アフガニスタン暫定政権発足式典では、壇上に大きな遺影が掲げられました。暗殺直前には、ジャーナリストのセバスチャン・ユンガーから取材を受けており、これが最後の記録となっています。

人物

マスードはタジク人であり、妻と1男5女の家族がいました。弟のアフマド・ズィヤ・マスードは北部同盟の外交官を務め、後にアフガニスタンの副大統領に就任。息子のアフマド・マスードは、2021年にターリバーンが勢力を拡大した際、パンジシール渓谷で抵抗運動を呼びかけました。

彼は英語とフランス語を操り、綱紀やイスラムの教えに厳格でありましたが、その人柄と軍事的な才能から、多くの兵士たちから深い信頼を得ていました。インタビューでは、アフガニスタンでの戦乱を平和的な対話によって解決し、民主的な政権が樹立されることを望む発言をしています。1996年にターリバーンが首都カーブルを包囲した際には、民衆への被害を避けるために撤退しました。

また、大の読書家であり、ヴィクトル・ユーゴーを好んで読み、反共主義者でありながらも毛沢東の著作から多くを学んだと公言しています。1997年には、睡眠時間を削って読書に没頭し、1日の睡眠時間が2時間程度であったと伝えられています。1996年のタリバーンの攻勢の際にも、約3000冊の蔵書を運び出し、その読書への執着ぶりを示すエピソードが数多く残っています。日本の月刊誌「文藝春秋」にも、行軍中に読書をする彼の姿が掲載されたことがあります。

主な発言

「国を解放したら、国民が信頼できる政治家に後は任せて、大学で建築学を勉強しなおしたい」（1983年のソビエト軍第六次攻勢を撃退後、自分の将来の展望を聞かれて）

アフマド・シャー・マスード