タジク人は、
中央アジアを中心に居住する
イラン系民族です。そのルーツは古代にまで遡り、スキタイ
遊牧民の流れを汲む東
イラン系の人々とされています。近現代においては、
ペルシア語系の言語を使用し、
都市や
オアシスに定住する人々を指す民族区分として認識されています。
起源:遊牧民から定住生活へ
タジク人とテュルク系民族は、古代から
中央アジアに共存していました。タジク人の祖先にあたる人々は、バクトリア人、ソグド人、
サカ人など、
中央アジアの歴史に名を刻んだ様々な民族の系譜を受け継いでいます。
9~10世紀頃、東
イラン語を話す古バクトリア人やソグド人が、西
イラン語である
ダリー語(ファルシー語)を話すようになる過程で、「タージーク」と呼ばれる集団の原型が形成されました。彼らはギンドゥクシュ山脈の北方および南方などに広がる
オアシスに定住し、徐々に
都市文化に馴染んでいきました。一方、テュルク系民族はステップ地帯を遊牧生活の場としていました。
歴史的には、
中央ユーラシアの乾燥地帯では、
都市文化に精通したペルシア系言語話者(タジク)と、遊牧生活を送るテュルク系言語話者(テュルク)という二つの大きな集団が形成されていました。タジクは
都市や
オアシスの中心地で発展した文化を担い、テュルクは周辺のステップ地帯で遊牧生活を送っていました。
語源:謎に包まれた名称
タジクという言葉の語源は明確には分かっていませんが、
ペルシア語の「王冠」(Taj)に由来するという説や、アラブ系のタイイ人と同語源であるという説などがあります。
人種・宗教・言語
タジク人はペルシア系(
イラン系)に属し、
コーカソイドに分類されます。
Y染色体ハプログループは、R1a、J、R2などが多くを占めています。宗教はイスラム教が主流で、
スンナ派が最も多く、イスマーイール派も一定数存在します。これは
イランの
ペルシア人の多くが十二イマーム派であることと対照的です。
言語は、西
イラン語群に属する
ペルシア語系言語が主流です。
アフガニスタンでは
ダリー語、
タジキスタンと
ウズベキスタンでは
タジク語と呼ばれています。また、一部の集団は東
イラン語群に属するパミール語などを話します。
中国では、パミール語系の言語を
タジク語と呼ぶこともあります。
各国におけるタジク人
アフガニスタン北部には多くのタジク人が居住しています。ドゥッラーニー朝時代には、王朝の支配下における構成集団として編入され、近代
アフガニスタン国家形成に重要な役割を果たしました。歴史的には、パシュトゥーン系の遊牧勢力が軍事と政治を担い、タジク人が文書行政を担当するという構図が一般的でした。
1936年までは
ダリー語が
公用語だった時代もありました。
1776年には首都が
カンダハールから
カーブルに移転しましたが、これもタジク人の影響力が大きかったことを示しています。
現在、タジク人は
ヘラート、パンジシール州、ゴルベンド、バダフシャーン州などに集中しており、平野部と山岳部に分かれて生活しています。平野部のタジク人は
パシュトゥーン人支配者への服従が比較的早く、
スンナ派が多いです。一方、山岳部のタジク人は独立心が強く、しばしば
パシュトゥーン人支配者に反抗しました。ソ連の
アフガニスタン侵攻や内戦時には、多くの優秀な軍事指揮官を輩出しました。
ターリバーン台頭後は、
タジキスタンへの帰還を迫られるなど、厳しい状況に直面しました。
1929年にタジク・ソビエト社会主義共和国が設立されました。初期の共産党要員は、南部、カラテギン、パミールなどの出身者から構成されましたが、その後、権力闘争が繰り広げられ、地域的な勢力バランスが変動しました。現在も、地域間の文化的・宗教的な違いが社会問題として存在します。
ウズベキスタンにも多くのタジク人が居住しており、その人口は公式統計よりもはるかに多いと推定されています。ソ連時代には、ウズベク語を話せるタジク人はウズベク人と分類されたため、実際のタジク人人口は隠蔽された可能性があります。サマルカンドやブハラなどの南部地域では、
タジク語が広く話されていますが、
タジク語教育は制限されているため、ウズベク語とのバイリンガルが一般的です。
中国の
新疆ウイグル自治区には、
タリム盆地などを中心にタジク人が居住しています。宗教的にはイスマーイール派が多く、言語はパミール語系の言語を使用する集団が多いです。歴史的には、
清朝時代には「
回族」という概念で他の民族と一括りにされていました。
中華人民共和国成立後は「タジク族」として
少数民族の一つに分類されています。
まとめ
タジク人は、
中央アジアの歴史と文化を語る上で欠かせない民族です。
遊牧民としての起源から、
都市への定住、そして近現代における様々な政治的・社会的な変動を経て、現在も独自の文化とアイデンティティを保ちながら、各地で生活を営んでいます。その歴史と現状を理解することで、
中央アジア地域の複雑な歴史と社会構造への理解が深まるでしょう。