アブデラ

アブデラ：古代ギリシャの栄光と影

ギリシャ北東部、トラキア地方に位置するアブデラ（古代ギリシャ語：Ἄβδηρα、現代ギリシャ語：Άβδηρα）は、古代世界において重要な都市として栄えました。現在もギリシャ共和国東マケドニア・トラキア地方クサンティ県に同名の都市（アヴディラ）として存在し、ネストス川の河口から17キロメートル東北東に位置する海岸都市です。タソス島と海を隔てて向かい合う、歴史と自然に恵まれた土地です。

ギリシャ神話と創設

アブデラ建国には、ギリシア神話との関わりが伝えられています。ヘラクレスがディオメーデースの人喰い馬を捕獲した際、従者の少年アブデロスが命を落としたとされ、その少年の名を冠して都市が建設されたという伝説です。一方、歴史的な見地からは、イオニア地方のクラゾメナイからの入植者による建設が有力視されています。紀元前7世紀に作られたと見られる陶器の発掘から、紀元前654年の建国伝説も裏付けられる可能性が高いと考えられています。

繁栄と衰退：栄光と苦難の歴史

アブデラは、建設後まもなく繁栄を極めました。紀元前544年にはペルシアへの服従を拒否したテオスの住民が多数移住し、その中には詩人アナクレオンも含まれていました。アブデラで作られた貨幣は、テオスと同様にグリフィンが描かれており、特に銀貨は種類が豊富でその美しさから知られていました。

しかし、繁栄の裏には幾度もの苦難が待ち受けていました。アケメネス朝ペルシアの支配を受け、デロス同盟に参加してアテナイと共にペロポネソス戦争を戦った後も、その豊かな経済力から度々略奪の対象となりました。トウモロコシ生産とトラキア人との交易で繁栄したアブデラは、デロス同盟の中でも3番目に富裕な都市でしたが、紀元前4世紀半ばには衰退を始めます。トリバリ人、マケドニア王国、セレウコス朝、プトレマイオス朝、さらには共和政ローマやペルガモン王国からも攻撃を受け、略奪を繰り返されました。

哲学と文化：アブデラが生んだ偉人たち

アブデラは衰退期を迎えるも、その名は哲学と文化において不滅のものとなりました。アテナイでは「アブデラの雰囲気」が愚かさの代名詞として用いられていましたが、皮肉にも、原子論を確立した哲学者デモクリトスや歴史家ヘカタイオスといった著名な人物を輩出しているのです。彼らの業績は、アブデラが単なる交易都市ではなく、高度な文化と知性を育んだ場所であったことを証明しています。

現代のアブデラ：遺跡と博物館

現在のアヴディラでは、バラストラ岬から古代アブデラの遺跡を見ることができます。7つの小高い丘に広がる遺跡は、東西の港を結び、南側には中世のポリスティロンの町の遺跡も残っています。アブデラ考古学博物館は、古代都市の歴史と文化を伝える貴重な資料を展示しており、訪れる観光客にその栄華を偲ばせてくれます。ローマ・カトリックの名義司教座が置かれていることも、アブデラの歴史的意義を示しています。アブデラの歴史は、古代ギリシャの繁栄と衰退、そして文化の深みを伝える重要な物語として、現代に受け継がれています。

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