アブドッサラーム・アーリフ

アブドッサラーム・アーリフ：イラク第二共和政を揺るがした生涯

アブドッサラーム・アーリフは、20世紀半ばのイラクを舞台に活躍した政治家であり、イラク第二共和政において大統領の座に就いた人物です。1921年3月21日の誕生から1966年4月13日の悲劇的な死まで、彼の生涯は政治的陰謀と権力闘争、そして民族主義的な理想と現実の狭間で揺れ動きました。

1958年の革命とカーシムとの対立

アーリフは、イラク軍の将校として、アブドルカリーム・カーシム率いる自由将校団に加わっていました。この秘密組織は、1952年のエジプト革命に影響を受け、王政打倒を企てていました。1958年、ヨルダンへのイラク軍派兵を命じられたアーリフは、その軍を率いてクーデターを決行。ハーシム王政を倒し、7月14日革命と呼ばれる歴史的転換点を作りました。

カーシム首相の下、アーリフは副首相兼内務大臣兼軍副司令官に任命されますが、二人の間にはすぐに亀裂が生じます。アーリフの汎アラブ主義的な姿勢と、カーシムのイラク・ナショナリストとしての立場は相容れず、権力闘争へと発展しました。結局、カーシムはアーリフを解任し、駐ボン大使に任命しますが、アーリフはこれを拒否。逮捕、死刑判決を受けるも、後に釈放されるという波乱の展開を経験します。

大統領就任とバアス党との対立

1963年2月、バアス党主導のクーデターによりカーシム政権は崩壊します。アーリフは革命指導評議会のリーダーとして、大統領に就任しました。しかし、実権はバアス党のアフマド・ハサン・アル＝バクル首相が握っていました。アーリフは、バアス党内の対立を巧みに利用し、11月にはバアス党へのクーデターを起こし、アル＝バクル首相を拘束しました。

大統領となったアーリフは新しい内閣を組織し、バアス党員も参加させましたが、多くの要職にはナセル主義者である軍人や官僚を登用しました。兄のアブドッラフマーンも重要な役割を担いました。さらに、バアス党のクーデター計画を事前に察知し、サッダーム・フセインら主要メンバーを逮捕するなど、強硬な姿勢を示しました。

アラブ統一への志向と悲劇的な死

アーリフはエジプトとの連携を強化し、合同大統領評議会を設立、イラク版のアラブ社会主義連合を結成するなど、アラブ国家統一を推進しました。エジプトのアラブ社会主義連合と同様に、汎アラブ主義勢力を糾合し、銀行や産業の国有化を進め、エジプトとの統合計画を発表しました。しかし、政策転換やナセル主義者閣僚の相次ぐ辞任など、困難な状況に直面します。

1966年、アーリフはイラク南部で飛行機事故により死亡しました。当初はヘリコプター事故と発表されましたが、バアス党派によるサボタージュ説もささやかれています。この突然の死により、イラクの政治情勢は大きく揺らぎ、兄のアブドッラフマーンが大統領職を継承することとなりました。

家族への悲劇

アーリフの死後も、彼の家族は悲劇に見舞われました。2004年、娘のサナ・アブドッサラーム・アーリフが夫と共に殺害され、孫にあたる息子も殺害されるという痛ましい事件が発生しました。

アブドッサラーム・アーリフの生涯は、イラクという国の激動の時代を象徴するものです。彼の政治的野心、汎アラブ主義への情熱、そして権力闘争の中で翻弄された人生は、歴史に深く刻まれた出来事として、今なお人々の記憶に残っています。

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