アブド・アッラフマーン3世

アブド・アッラフマーン3世：後ウマイヤ朝を黄金時代へ導いたカリフ

アブド・アッラフマーン3世（889年 - 961年）は、後ウマイヤ朝の第8代アミールであり、初代カリフとして、その名を歴史に刻んでいます。彼の治世は、内政の安定、軍事的な成功、そして文化の隆盛によって特徴づけられ、後ウマイヤ朝をイベリア半島における一大勢力へと押し上げました。

南部の平定とカリフ宣言

912年にアミールとして即位した当時、後ウマイヤ朝はムワッラド貴族の反乱に苦しんでいました。アブド・アッラフマーン3世は、国内の勢力をまとめ上げ、反乱鎮圧に奔走します。918年には、反王朝勢力の指導者であったイブン・ハフスが死去しますが、彼はその息子たちとの戦いを続け、928年にこれを完全に平定しました。南部を平定後の929年1月、彼はカリフを宣言し、「アン・ナースィル・リッディーニッラー（神の宗教のための勝利者）」という称号を名乗りました。これにより、イスラーム世界には、バグダードのアッバース朝、マフディーアのファーティマ朝、そしてコルドバの後ウマイヤ朝という3つのカリフ国が鼎立することになったのです。

北部の平定と軍事的成功

南部を平定したアブド・アッラフマーン3世は、930年に自ら軍を率いてトレドへ進軍し、932年に降伏させます。937年には、サラゴサを長期間の包囲の末に陥落させました。939年のシマンカスの戦いでは、情報漏洩によりレオン王国＝カスティーリャ伯国連合軍に敗北し、自尊心を深く傷つけられましたが、その後も軍事的な優位を保ち続けました。940年にはレオン王国がアンダルスの三辺境からの侵攻を受け、和平を申し出ています。治世末期の958年には、レオン王国が後ウマイヤ朝に忠誠を誓い、軍事的な援助を求めるまでに至りました。

文化の発展とコルドバの繁栄

アブド・アッラフマーン3世は、文化の発展にも力を注ぎました。優秀な諮問官であり医師であったユダヤ人のハスダイ・イブン・シャプルートの助けを得て、ビザンツ帝国から送られたディオスコリデスの薬学書を正確に翻訳させました。また、コルドバのメスキータ（モスク）に新しいミナレットを建造させ、礼拝室の補強も行いました。彼の治世下で、コルドバはイスラーム文化とヨーロッパ文化が融合した一大文化の中心地として発展し、人口は30万人を超えるまでになりました。コルドバ近郊には、離宮都市であるザフラー宮殿が建設され、彼の居城となりました。

治世の概要と評価

アブド・アッラフマーン3世の治世は、多くの困難に直面しました。王朝内部の派閥対立、キリスト教徒によるレコンキスタ運動、そしてファーティマ朝の侵攻など、難題が山積していました。しかし、彼は優れたリーダーシップを発揮し、これらの問題を克服しました。929年にはカリフとして即位し、アッバース朝やファーティマ朝に対抗し、レコンキスタを徹底的に弾圧し、イベリア半島全土をほぼ支配下に置きました。内政においては、農業を奨励し、軍備を拡大し、文化を保護しました。彼の死後、後ウマイヤ朝はその勢力を維持し、イベリア半島におけるイスラーム文化の繁栄を支え続けました。アブド・アッラフマーン3世は、後ウマイヤ朝を黄金時代に導いた傑出した君主として、歴史に名を残しています。

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