アブラチャン

アブラチャン（油瀝青）とは

アブラチャン（学名: Lindera praecox）は、クスノキ科クロモジ属に分類される落葉性の低木または小高木です。別名ムラダチとも呼ばれます。雌雄異株であり、春には黄色い花を咲かせ、秋には黄褐色の実をつけます。

名称の由来

和名である「アブラチャン」は、果実や材、樹皮に油分を多く含んでいることに由来します。この油分は、古くは灯油として利用されていました。「アブラ」は油を意味し、「チャン」は瀝青（石油や天然ガス）を指し、油を練り合わせた塗料を意味します。また、中国語では「大果山胡椒」と呼ばれています。学名の種小名 praecox は、「早熟な」という意味を持ちます。

分布と生育地

アブラチャンは、日本の本州、四国、九州に分布しています。主に山地の沢沿いや落葉樹林のやや湿った場所に自生しています。

特徴

アブラチャンは、落葉広葉樹の低木または小高木で、樹高は3メートルから6メートル程度まで成長します。幹は株立ち状になり、樹皮は灰褐色から茶褐色で、若木でも成木でも滑らかで細かい皮目が多いのが特徴です。一年枝は細く無毛で、葉は互生します。葉身は卵形から楕円形で、長さは4センチメートルから9センチメートル程度、葉先は尖っており、全縁で質は薄いです。葉柄は赤みを帯びます。秋には黄色く紅葉し、冬になっても枯れ葉が枝に残ることが多いです。

枝や実にはクスノキ科特有の芳香がありますが、どことなく油っぽい香りがします。

花

花期は早春（3月から4月）で、葉に先立って淡黄色の花を咲かせます。春まだ葉がほとんど芽吹いていない森の中では、ひっそりと黄色い花が目立ちます。花は3個から5個が集まって散形花序を形成し、雄花と雌花ともに花被片は6個です。雄花には9個の雄蕊があり、雌花には1個の雌蕊があります。同時期に咲くダンコウバイと花がよく似ていますが、アブラチャンは花柄があるので区別できます。

果実と種子

果実は直径1.5センチメートルの球形で、秋（10月から11月）に黄褐色に熟し、不規則に裂けて種子を出します。種子は茶色で、油分を多く含んでおり、火をつけると燃え続けるほどです。

冬芽

冬芽は互生し、枝先につく仮丁芽（葉芽）は細長い紡錘形で、葉痕のすぐ上に小さな副芽があります。側芽は小さく、3枚から7枚の芽鱗に包まれており、枝に密着することが多いです。花芽は球形で、柄がついて葉芽の基部に2個から4個つきます。葉痕は半円形で維管束痕が1個あります。ダンコウバイとは冬芽の形が大きく異なり、ダンコウバイの冬芽は葉芽が楕円形、花芽は球形で柄がなく、どちらも大きくぼってりしているため、冬芽に着目すると区別が容易です。

利用

アブラチャンは、その油分を活かして様々な用途で利用されてきました。

朝鮮半島では、女性の髪の油として利用されていました。
日本では、油分が多いため、薪炭として使われていました。
果実や枝から油を採り、灯油として利用していました。
群馬県では、枝から輪かんじきを作っていました。

参考文献

鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年。
西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年。
林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年。
平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年。

外部リンク

アブラチャン - ウェイバックマシン（2018年11月19日アーカイブ分）（樹木図鑑）
アブラチャン（デジタル植物園）

もう一度検索