アボット・ローレンス

アボット・ローレンス（Abbott Lawrence, 1792年 12月16日 - 1855年 8月18日）は、19世紀半ばのアメリカ合衆国において、経済界、政界、そして慈善活動の分野で大きな影響力を持った人物です。

生涯

マサチューセッツ州グロトンに生まれたローレンスは、故郷のグロトン・アカデミーで学びました。卒業後、彼は兄であるアモス・ローレンスの下で商業の世界に入り、ボストンで共に輸入事業を立ち上げました。兄弟は主にイギリスや中国から様々な商品を仕入れ、その事業を拡大させました。後に彼らは勃興期の紡織業にも進出し、この分野での成功がローレンス家に莫大な富をもたらしました。ニューイングランド地方では、アボットとアモスのローレンス兄弟は、織物産業の発展における先駆者として広く認識されるようになりました。

1820年代に入ると、アボット・ローレンスは単なる成功した実業家としてだけでなく、公共の場でも発言力を持つようになりました。彼は経済発展の手段として鉄道建設を強く支持し、その推進は時に激しい議論を呼びました。政治においては、ホイッグ党の支持を得て、1834年にマサチューセッツ州から連邦下院議員に選出されました。1836年には、党の公認は得られませんでしたが、無所属で再選を果たしています。また、1842年には、カナダとの国境紛争であるアルーストック戦争の終結に向けた交渉に関わる委員会のメンバーに任命され、外交の舞台でもその手腕を発揮しました。

1848年、ローレンスはホイッグ党の副大統領候補指名を目指しましたが、これは叶いませんでした。しかし、同年の大統領選挙ではホイッグ党候補のザカリー・テイラーが勝利を収め、新大統領となったテイラーはローレンスにいくつかの重要な役職を打診しました。ローレンスは閣僚のポストを辞退し、イギリス駐在アメリカ公使の職を選びました。ロンドンでの任期中、彼はクレイトン・バルワー条約の締結交渉に関与し、その功績は高く評価されました。

1852年に駐英公使を辞任して帰国したローレンスは、その年の大統領選挙に立候補したウィンフィールド・スコット将軍を積極的に支援しました。しかし、スコットが奴隷制反対の立場を鮮明にしたことは、奴隷制を支持する勢力が強かった当時のホイッグ党との溝を深め、結果としてスコットは選挙で大敗しました。

実業家、政治家としての活動と並行して、ローレンスは熱心な慈善活動家でもありました。彼はボストンのユニテリアン教会を中心に活動し、特に下層階級の人々に対する教育機会の提供を強く訴え、そのための寄付を広く募りました。彼の支援は多岐にわたり、グロトン・アカデミーやボストン公共図書館、そしてボストン市が行った安価な住宅供給事業などを財政的に支えました。中でも特筆すべきは、科学教育の振興を願い、ハーバード大学にローレンス科学学校（現在のハーバード大学工学・応用科学大学院の前身の一つ）の設立資金を寄付したことです。

アボット・ローレンスは1855年 8月18日、ボストン市内でその生涯を終えました。彼の遺体はマサチューセッツ州ケンブリッジにあるマウント・オーバーン墓地に埋葬されています。

家族

ローレンス家は、ボストンにおいて「ボストン・バラモン」と俗称された特権的な上流階級の一員でした。この階級は、初期のイギリスからの入植者であるWASP（アングロ・サクソン系プロテスタント）を祖先とし、貿易や工業で築いた莫大な財産を基盤にニューイングランドの支配層を形成していました。

アボットの父親は、アメリカ独立戦争で大陸軍の士官を務めたサミュエル・ローレンス、母親はスザンナ・パーカーでした。

ローレンスは1819年 6月28日、マサチューセッツ州メドフォードでキャサリン・ビグローと結婚しました。二人の間には7人の子供が生まれました。

アニー・ビグロー・ローレンス (Annie Bigelow Lawrence, 1820-????)
ジェイムズ・ローレンス (James Lawrence, 1821-1875)
ジョージ・ローレンス (George Lawrence, 1824-????)
ジョン・アボット・ローレンス (John Abbott Lawrence, 1825-????)
ティモシー・ビグロー・ローレンス (Timothy Bigelow Lawrence, 1826-1869)
アボット・ローレンス (Abbott Lawrence, 1828-1893)
* キャサリン・ビグロー・ローレンス (Katherine Bigelow Lawrence, 1832-1895) - 彼女の子供には、天文学者パーシヴァル・ローウェル、ハーバード大学学長アボット・ローレンス・ローウェル、詩人エイミー・ローウェルがいます。

アボット・ローレンスは、その類まれなるビジネスの才覚と、公共の福祉への強い関心、そして政治・外交の分野での貢献を通じて、19世紀アメリカ史にその名を刻んでいます。

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