アポクシュオメノス

アポクシュオメノス（Apoxyomenos）

アポクシュオメノスとは、古代ギリシアの彫刻で「拭う者」という意味を持ち、アスリートが汗を拭う姿を描いた作品を指します。このテーマは古代ローマにも受け継がれ、さまざまな文化に影響を与えました。アポクシュオメノスは、泥や汚れを取り除くための肌かき器を使う姿として知られています。

最も有名なアポクシュオメノスは、古典古代期に活躍した彫刻家リュシッポスによって制作されました。紀元前330年ごろに作られたこのブロンズ像は、現在は失われていますが、当時のローマの将軍マルクス・ウィプサニウス・アグリッパのアグリッパ浴場に設置されていたことが大プリニウスの『博物誌』によって語られています。後に皇帝ティベリウスがこの彫像に魅了され、寝室に移すよう命じたことで「我々のアポクシュオメノスを取り戻せ」という騒動が生じ、帝政の権威を損なう事件が発生しました。

ローマのバチカン美術館には、1849年に発見された大理石製のアポクシュオメノスの複製があります。これはリュシッポスの作品とされ、近代においても広く知られています。この像は等身大よりも若干大きく、手足が長く、ポリュクレイトスが描く7頭身とは異なり、リュシッポスの特徴である8頭身のプロポーションが強調されています。大プリニウスはリュシッポスが「他の芸術家は人間を自然に描くが、私は人を理想的な姿で描く」と語ったことからも、彼の芸術的な哲学が伺えます。

リュシッポスの作品は、動的なコントラポストを採用し、見る角度から異なる表情をもたらすような構成が施されています。また、同じテーマはポリュクレイトスやその弟子であるシキオンのダイダロスにも受け継がれ、ポリュクレイトスの断片的なブロンズ像は腕を低く構え、その姿勢が一層のリアリティを与えています。この像は1896年にトルコのエフェソスで発見され、現在はウィーンの美術史美術館に保管されています。保存状態が良好であるため、オリジナルかヘレニズム時代の模作かについては学術的な議論が続いています。

さらに、ウフィツィ美術館にはメディチ家のコレクションの一部として、クラシック期のneo-Attic様式のアポクシュオメノス像も存在します。これらの資料は、エフェソスのブロンズ像が発掘される前には紀元前5世紀のオリジナルとされていました。

1999年、クロアチアのロシニ島近海でほぼ完全なアポクシュオメノスのブロンズ像が発見され、これは紀元前2世紀から紀元前1世紀のヘレニズム期の複製と考えられ、現在はザグレブの美術館に「Croatian Apoxyomenos」として収蔵されています。この像は独特の特徴を持ち、エフェソスのブロンズ像といくつかの共通点があります。エルミタージュ美術館には別のアポクシュオメノスの頭部が所蔵されており、18世紀初頭にヴェネツィアで収集されたものも存在します。

このように、アポクシュオメノスには様々な形態の彫像が伝わっており、古代におけるアスリートの姿勢や美学を探る貴重な資料となっています。特に、彫像の特徴を極めたリュシッポスの作品群は、古代の彫刻表現の一大集成を形成し、後の芸術家たちに多大な影響を与えました。

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