リュシッポス

リュシッポス：古代ギリシアの巨匠彫刻家

リュシッポス（Lysippos）は、紀元前4世紀に活躍した古代ギリシアの彫刻家であり、スコパス、プラクシテレスと並び、ギリシア古典時代を代表する三大彫刻家の一人とされています。彼は、ヘレニズム時代への移行期において、彫刻界に大きな影響を与えました。

生涯

リュシッポスは紀元前390年頃、シキュオンで生まれました。若い頃はブロンズ細工師としてキャリアをスタートさせましたが、独学で彫刻を学び、後にアルゴスやシキュオンで学校長を務めるまでになりました。大プリニウスによれば、彼は1500点以上のブロンズ作品を制作したとされています。

リュシッポスの作品の特徴は、その優雅さと、ポリュクレイトスの規範からの脱却にあります。彼は、均整の取れたプロポーションを追求しつつも、頭部を小さくすることで、人物の背を高く見せる工夫を凝らしました。また、まぶたや足の爪といった細部へのこだわりも、彼の作品の特徴として知られています。

ロードス島の巨像を制作したリンドスのカレスは、リュシッポスの弟子であったと伝えられています。巨像は現存しないため、鋳造ブロンズ像であったのか、ブロンズ板を打ち付けたものであったのか、議論が続いています。

リュシッポスは、アレクサンドロス大王の個人的な彫刻家でもありました。近年発見された『ミラノ・パピルス』に収録されたポセイディッポスのエピグラムは、リュシッポスが制作したアレクサンドロス大王のブロンズ像に触発されて書かれたものです。

リュシッポスは、乱れた髪、開いた唇、上を向いた表情で、啓示を受けた神のようなアレクサンドロス大王の彫刻を制作したとされています。その代表的な例として、ティヴォリで発見されたローマ帝国時代の複製が、ルーヴル美術館に所蔵されています。

作品

リュシッポスの作品は、現存するものが複製品のみであるため、彼の技法を正確に把握することは困難です。しかし、彼の大きな仕事場、作品の複製需要、ヘレニズム期やローマの鑑定、多くの弟子たちの存在などから、その影響力の大きさを伺い知ることができます。

リュシッポスの作品として知られているものには、以下のようなものがあります。

サン・マルコの馬：ヴェネツィアのサン・マルコ寺院にあります。
弓を張るエロス：様々な複製が存在し、大英博物館のものが最も有名です。
アギアス像：デルポイで発見された大理石の複製が有名です。
油そそぎ：『アギアス』に似た作品で、ドレスデンとミュンヘンにあります。
ファルネーゼのヘラクレス：カラカラ浴場にあったヘラクレス像で、ナポリ国立考古学博物館に大理石の複製が現存します。
アポクシュオメノス（拭う者）：バチカン美術館にローマ帝国時代の大理石の複製があります。

まとめ

リュシッポスは、古代ギリシアの彫刻界に大きな足跡を残した巨匠です。彼の作品は、均整の取れたプロポーションと、細部へのこだわりによって、人物の美しさを最大限に引き出しています。アレクサンドロス大王の肖像彫刻家としても知られ、その芸術は後世に多大な影響を与えました。

参考文献
A. F. Stewart, "Lysippan Studies" 2. Agias and Oilpourer" American Journal of Archaeology 82.3 (Summer 1978), pp. 301-313.

読書案内
Gardner, P. 1905. ‘The Apoxymenos of Lysippos‘, JHS 25:234-59.
Serwint, N. 1996. ‘Lysippos‘, in The Dictionary of Art vol. 19: 852-54.
Stewart, A.F. 1983. ‘Lysippos and Hellenistic sculpture‘, AJA 87:262.
* Vermeule, C.C. 1975. ‘The weary Herakles of Lysippos‘, AJA 79:323-32.

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