アメリカオニアザミ

キク科アザミ属に分類される、二年生の植物です。学名は Cirsium vulgare とされています。日本では本来、自生していなかった外来植物であり、和名には「アメリカ」と冠されますが、実際にはヨーロッパが原産であるため、誤解を避ける目的で「セイヨウオニアザミ」と呼ばれることもあります。中国では「翼薊」という名前で知られています。

分布

この植物はヨーロッパを原産地とし、現在は世界各地に広がりを見せています。日本では、北海道、本州、四国へと移入し定着しており、特に北海道ではその分布域が拡大しています。日本以外にも、北アメリカ、アフリカ南部、オーストラリアなど、温暖な地域を中心に外来種として広く根付いています。

日本へは、1960年代に北アメリカから輸入された穀物や牧草に種子が混入して持ち込まれたのが最初とされています。初めて北海道で確認された際は、「ヒレアザミ」という別名で呼ばれた時期もありました。

特徴

アメリカオニアザミは二年草として成長します。一年目は、地面にへばりつくようにして、鳥の羽のような深い切れ込みが入った根生葉を広げ、大きなロゼット（地面に放射状に広がる葉の集まり）を形成します。この葉の縁や裂片の先には、非常に鋭いトゲが無数に生えています。

二年目になると、ロゼットの中央から太く丈夫な茎がまっすぐ立ち上がります。茎の高さは通常50センチメートルから1メートルほどですが、栄養条件が良い場所では2メートル近くにまで生長することもあります。茎の大きな特徴は、縦方向に張り出した翼（ひれ状の部分）があり、その全体にわたって鋭いトゲが密生している点です。茎に付く葉も、根生葉と同様に深く裂け、縁や先端には硬いトゲがあります。葉の表面は緑色で短い硬い毛に覆われ、触るとざらざらしています。一方、葉の裏面には白い綿毛が密生しており、白っぽく見えます。

開花時期は、概ね夏の終わりから秋にかけて（7月から10月頃）です。茎の上部の枝先に、鮮やかな紅紫色の頭状花を1つから3つまとめて咲かせます。花は両性の性質を持っています。花を包む総苞は、根元がやや膨らんだ長い卵形をしており、幅は2センチメートルから4センチメートルほどになります。総苞片は細長く、その先端も例外なく鋭いトゲで武装しています。花冠は筒状で、長さは3センチメートルから4センチメートル。花が終わると、白い綿毛（冠毛）を持つ果実（痩果）ができます。果実は長さ約3ミリメートルの灰白色で、この綿毛は非常に取れやすい性質があります。種子は、この綿毛によって風に乗り、タンポポのように遠くまで運ばれて散布されます。花が咲く部分の土台である花床には、1センチメートルから2センチメートルほどの白い剛毛状の鱗片が密生しています。

外来種問題

日本国内においては、人里近くの空き地や河川敷のみならず、北海道の利尻島や世界遺産の知床国立公園といった、豊かな自然環境が維持されてきた地域にも侵入し、深刻な問題を引き起こしています。繁殖力が非常に強く、広範囲にわたって群落を形成し、地面を覆い尽くすことで、そこに元から生えていた在来の植物の生育スペースを奪い、競争に打ち勝って駆逐してしまう影響が懸念されています。

さらに、全身に生えた鋭いトゲのため、ニホンジカや牛などの大型草食動物がこの植物を避けて食べないという性質があります。そのため、シカの生息数が多い地域や、牛が放牧される酪農地帯では、他の草が食べ尽くされる中でアメリカオニアザミだけが残り、一層繁茂しやすくなっています。これは生態系全体のバランスを崩したり、農地の景観を悪化させたりする要因となっています。

こうした生態系や農地への被害を考慮し、日本政府は「外来生物法」に基づき、アメリカオニアザミを「生態系被害防止外来種」に指定しています。この指定により、輸入や販売、野外への放出などが原則として禁止されています。

防除や駆除については、物理的に引き抜く方法が効果的ですが、茎や葉、総苞に至るまで全身に鋭いトゲが密生しているため、素手での作業は不可能であり、厚い手袋を使用しても困難を伴います。

文化

アザミは古くからヨーロッパ、特にスコットランドにおいて象徴的な植物とされており、スコットランドの国花として知られています。国花とされるアザミの種類は特定されていませんが、このアメリカオニアザミがその一つであるとも言われています。

もう一度検索