アメリカヌマジカ

アメリカヌマジカ（Blastocerus dichotomus）

アメリカヌマジカは、偶蹄目シカ科に属する独特なシカで、南米特有の存在です。この種は、アメリカヌマジカ属を唯一構成するメンバーであり、サイズ的にもこの地域で最も大きなシカの一種とされています。

分布

アメリカヌマジカはアルゼンチンの北東部及び中東部、パラグアイ、ブラジルの南部と中西部、さらにペルーの南東部とボリビアの東部に広がる地域に生息しています。また、パラグアイが模式標本の産地となっており、一方でウルグアイではすでに絶滅しています。

形態

このシカは、体長153〜195センチメートル、尾長が10〜16センチメートル、肩高が110〜127センチメートル、体重は80〜150キログラムと、南アメリカに生息するシカ科の中で最大の種です。その特徴的な被毛は、全体的に長く粗いもので、夏毛は明るい赤褐色、冬毛は暗褐色に変化します。目の周りや耳の内側は白色であり、鼻部には黒い縦の縞模様が入っています。また、四肢の下部は黒色で、耳は比較的大きくなっています。

特筆すべきは、アメリカヌマジカの蹄に関する特徴です。幅広い蹄を持ち、最大で約10センチメートル以上に広げることが可能であり、左右の蹄は皮膜でつながっています。これにより、ぬかるんだ環境でも簡単に移動できる利点があります。オスには最大61センチメートルの長さに達する、太く枝分かれした角があります。

生態

主に河川や湿原、氾濫原といった水辺に生息しており、個体は単独、またはペアで行動することが多く、最大6頭の小規模な群れを作ることもあります。活動パターンは主に薄暮から夜間にかけて採食を行いますが、時には昼間にも活動することがあります。また、洪水が発生すると、島状に残った陸地に集まる特徴があります。アメリカヌマジカは植物を主な食料とし、草本や木本の小枝や葉、水生植物を好んで食べます。

生殖に関しては、胎生であり、妊娠期間はおよそ9か月です。また、特定の地域では繁殖期が明確な時期（4〜9月）に設定されることもあります。1回の出産では通常1頭の幼獣が生まれます。

人間との関係

アメリカヌマジカはその生息地域で食用として利用されたり、毛皮が採取されることもあります。しかし、農地開発やダムの建設、干拓による生息地の消失、さらに金採掘による水質汚染や密猟、スポーツハンティングによる個体数の減少、家畜との競合や伝染病の影響など、多くの要因で個体数は残念ながら減少しています。1998年のパンタナルでは約36,314頭が確認されましたが、ウルグアイでは1958年以来生息が確認されておらず、絶滅と考えられています。

アメリカヌマジカはその特異な特性と、急速に減少する生息数から、保護の重要性が高まっています。今後の対策や保護活動が今後の存続に大きく寄与することが期待されます。

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