パンタナル

パンタナル：世界最大の熱帯性湿地の生態と危機

パンタナルは、南アメリカ大陸のほぼ中央に位置する広大な熱帯性湿地です。その面積は約195,000平方キロメートルに及び、日本の本州に匹敵するほどの広さです。名前の由来は、ポルトガル語で「沼地」を意味する「pantano」から来ています。

地理的特徴

パンタナルは、ブラジルのマットグロッソ州とマットグロッソ・ド・スル州に大部分が属し、一部がゴイアス州、ボリビア、パラグアイにまたがっています。この地域は、緩やかな傾斜を持つ広大な平原であり、標高は80メートルから150メートル程度です。高原地帯から流れ込むパラグアイ川とその支流が、パンタナルの水資源を支えています。雨季には、パンタナルの80%以上が水没し、広大な水面が広がります。

パンタナルは、周囲の地域と地理的に区切られています。西と北西はチキターノ熱帯乾燥林、南西と南はグランチャコと接し、北、東、南東にはセラードが広がっています。年間降水量は1,000から1,400ミリメートルですが、パンタナルの水資源は、高原地帯から流れ出すパラグアイ川に大きく依存しています。年間平均気温は摂氏25度ですが、気温の変化は大きく、0度から40度まで変動することがあります。

生態系の特徴

パンタナルは、水文学、地質学、生態学的に特異な性質を持つ地域です。1982年のRADAMBRASILの調査では、パンタナル地域には12種類の生態系が存在すると定義されています。乾燥と洪水を季節的に繰り返す「洪水平原生態系」であり、水位の変動が生物多様性に大きな影響を与えています。土壌は砂、粘土、シルトなど多様な状態を示します。

植物相

パンタナルの植物相は非常に多様で、「パンタナル・コンプレックス」と呼ばれるほどです。アマゾン熱帯雨林に典型的なオオミテングヤシなどの樹木、オオオニバス、サボテン、セラードやチャコといった地域の植物も見られます。森林は標高の高い場所に一年中生い茂り、草本は水浸しになる場所に季節的に生えます。草本の生育が季節的に限定されるのは、繰り返される洪水と乾季の水不足が原因です。

動物相

パンタナルには、約1,000種の鳥類、約400種の魚類、約300種の哺乳類、約480種類の爬虫類が生息しています。ピラニア、カピバラ、カイマンなどもその一部です。アメリカヌマジカやオオカワウソなどの希少動物も生息しています。また、スミレコンゴウインコ、ジャガー、タテガミオオカミなど、絶滅の危機に瀕している動物も数多く存在します。

開発と危機

パンタナルは生物多様性の宝庫ですが、近年、農地や牧草地を開発するための野焼きによる林野火災が多発しており、深刻な危機に瀕しています。2020年には、湿原の1割に相当する約1万9000平方キロメートルが焼失しました。世界自然保護基金（WWF）ブラジルは、生態系の破壊と煙害を警告し、自然保護団体や国際投資機関はブラジル政府に対策を求めています。一部の企業は、パンタナルで飼育された牛の肉の使用を停止する措置を講じています。

世界遺産とラムサール条約

パンタナルのうち、1,878平方キロメートルが2000年に「パンタナル自然保護地域」としてUNESCOの世界遺産および生物圏保護区に登録されました。また、ブラジルの3ヶ所、ボリビアの1ヶ所はラムサール条約登録地にもなっています。

世界遺産としての登録基準は以下の通りです。

(7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
(9) 陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
* (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。

パンタナルは、その独特な生態系と生物多様性において、地球上でかけがえのない場所です。しかし、開発や環境破壊の脅威にさらされており、その保全が急務となっています。

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