アメリカ合衆国内国歳入庁

内国歳入庁（IRS）

アメリカ合衆国の税金を管理し、徴収する機関である内国歳入庁（Internal Revenue Service、略してIRS）は、連邦政府の重要な組織の一つです。この機関は、税法の執行を行い、納税者へのサービスを提供する役割を担っています。日本の国税庁に相当する存在であり、しばしば「IRS」とそのまま呼ばれることもあります。

歴史的背景

内国歳入庁の起源は、1862年に遡ります。南北戦争の真っただ中、大統領エイブラハム・リンカーンと議会は戦費調達のために所得税を導入しました。この際、内国歳入長官というポジションが設けられ、その後の内国歳入局（the Internal Revenue）として発展しました。一時期、所得税は廃止されましたが、1894年に復活し、合衆国最高裁判所によって違憲とされる時期もありました。しかし、1913年に憲法修正第16条が成立し、議会には再度所得税に関する立法権が与えられました。

第一次世界大戦中には、所得税の最高税率が77%にまで引き上げられ、戦後には税率は24%に引き下げられましたが、世界恐慌に伴い税率は再度高騰しました。第二次世界大戦中は源泉徴収制度が導入され、納税の新しい形態が誕生しました。1950年代には官職の任命制が廃止され、専門職の職員が採用されるようになり、IRSはより効率的な組織へと変貌していきました。

IRSを利用した政治スキャンダル

IRSは時折、政治的なスキャンダルに関与することがあります。1930年代にはフランクリン・ルーズベルトが政敵を攻撃するためにIRSを利用したとされ、さらにはその息子エリオットもその事実を証言しています。1950年代から1960年代には、FBIがIRSを利用し、公民権運動の指導者であるマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの活動を監視しました。

1960年代にはジョン・F・ケネディ大統領が支持基盤である右翼団体を調査対象とし、その後のリンドン・ジョンソン大統領も同様のプログラムを引き継ぎました。この時期のIRSの活動はほとんど知られることなく進行していましたが、1974年にはリチャード・ニクソン大統領が政敵を厳しく監査する秘密のIRSプログラムを実施し、これによりウォーターゲート事件が引き起こされ、ニクソンの辞任へと繋がりました。

1990年代にはビル・クリントン大統領も厳しい監査を保守派団体に対して行うことがあり、その後も2004年にジョージ・W・ブッシュ大統領が全米黒人地位向上協会（NAACP）に対して監査を実施した事例など、IRSの利用に関する問題が存在しました。特に2013年にはバラク・オバマ大統領の下で、IRSが保守系団体に対する税審査を厳格化していたことが発覚し、大きな論争を呼びました。

機構の構成

IRSは多様な機能を持つ機関であり、多くの役職が存在します。最上位には内国歳入庁長官（Commissioner）が位置し、その下には様々な専門部門の責任者が配置されています。納税者の権利を守るための国家納税義務者保護官をはじめ、税の執行とサービスを担当する副長官や、犯罪捜査部長など、多数の役職が機構内で機能しています。これにより、IRSは納税者に対して公平な税制の運用とサービスの提供を目指しています。

このようにIRSは、アメリカの税制を支える中核的な機関であり、その歴史や役割は複雑で多岐にわたります。

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