アメリータ・ガリ＝クルチ

アメリータ・ガリ＝クルチ：20世紀初頭を彩った伝説のコロラトゥーラ・ソプラノ

アメリータ・ガリ＝クルチ（1882年11月18日 – 1963年11月26日）は、イタリアが生んだコロラトゥーラ・ソプラノ歌手であり、20世紀初頭において最も傑出した声楽家の一人として名を馳せました。旧姓はガッリ。結婚後、二重姓の「ガリ＝クルチ」を芸名として用いました。

幼少期からオペラ歌手デビューまで

ガリ＝クルチは、ミラノの上流中産階級の家庭に生まれ、幼い頃からピアノを習い始めました。祖父の影響で声楽に興味を持ち、ピエトロ・マスカーニからも歌手としての活動を勧められます。驚くべきことに、彼女はほとんど独学で声楽を習得しました。他のソプラノ歌手の歌唱を注意深く聴いたり、声楽に関する古い教本を読んだり、ピアノを弾きながら歌唱練習を重ねることで、その天賦の才能を開花させていったのです。

1906年、トラーニで《リゴレット》のジルダ役を演じ、オペラ歌手としてデビューを飾ります。その歌声は瞬く間にイタリア全土に広まり、彼女は一躍注目の的となりました。1908年にはルイージ・クルチ侯爵と結婚し、「ガリ＝クルチ」姓となりますが、後に離婚。1921年には伴奏者であったホーマー・サミュエルズと再婚しました。

国際的な活躍とアメリカでの成功

ガリ＝クルチは、ヨーロッパや南米で精力的に演奏旅行を行いました。1915年には、エンリコ・カルーソーとの共演で、《ランメルモールのルチア》のブエノスアイレス公演に出演。これは彼女が伝説的なテノール歌手カルーソーと共演した唯一の機会となりました。1916年、アメリカ合衆国に渡ります。当初は無名歌手として短期間の滞在を予定していましたが、シカゴで《リゴレット》のジルダ役を演じた際、その素晴らしい歌声が観客を魅了し、熱狂的な評判を呼びました。その結果、シカゴ・オペラ・カンパニーに留まることを決意し、1924年まで同歌劇場で活躍しました。また、1916年にはビクター社と契約し、1930年まで積極的に録音を行いました。1921年にはニューヨーク・メトロポリタン歌劇場にデビューし、1930年にオペラ界から引退するまで同歌劇場で数々の舞台に出演しました。

引退、そして晩年

1930年1月、ガリ＝クルチはオペラという芸術の衰退を予感し、舞台から引退。その後は演奏会を中心に活動しました。1935年には、夫と共に世界観光旅行の途中に日本を訪れ、コンサートを開催しました。長年、喉の不調に悩まされており、1935年には甲状腺腫の摘出手術を受けています。手術は細心の注意を払って行われましたが、術後も声の悩みは解消されず、高音域を歌う能力を失ってしまいました。このことから、喉頭の神経（上喉頭神経の迷走神経）が損傷したと考えられ、この神経は後に「ガリ＝クルチの神経」として知られるようになりました。しかし、2001年の再検証により、声の衰えは手術の結果ではない可能性が高いという報告もなされています。

1936年、間違った助言から《ラ・ボエーム》のミミ役でシカゴの舞台に復帰するも、かつての輝きを取り戻すことはできませんでした。その後、いくつかのリサイタルを終え、完全に引退。晩年はカリフォルニアで過ごし、82歳の誕生日から1週間後に生涯を閉じました。

その他のエピソード

ガリ＝クルチは、インドの導師パラマハンサ・ヨガナンダに瞑想法とヨガを学び、ヨガナンダの著書『永遠からの息吹』に序文を寄せています。また、アニメーション映画『火垂るの墓』の結末では、彼女の歌唱による《埴生の宿》の音源が使用されています。

主要な出演オペラ

《リゴレット》ジルダ
《ランメルモールのルチア》ルチア
《椿姫》ヴィオレッタ
《セビリアの理髪師》ロジーナ
《ラ・ボエーム》ミミ
《金鶏》シェマハの女王
《ロメオとジュリエット》ジュリエット
《ディノラ》ディノラ

アメリータ・ガリ＝クルチは、その類まれなる才能と努力によって、20世紀初頭のオペラ界に輝かしい足跡を残しました。彼女の歌声は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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