アラカルト・カンパニー

1987年に公開された日本映画『アラカルト・カンパニー』は、花の都パリを舞台に、目的を持たずに滞在する若者たちがひょんなことから便利屋を開業する姿を描いた作品です。幻燈社が製作を手がけ、監督・脚本は太田圭が務めました。

製作背景とスタッフ

本作の製作母体である幻燈社は、東陽一監督と企画・プロデューサーの前田勝弘が1977年に設立した会社です。主に映画製作の委託や下請けを担ってきましたが、本作では自社製作として送り出されました。配給は東映クラシックフィルムが担当しており、1980年代における幻燈社と東映の協力関係が良好に進んでいた流れの中で制作されたと考えられます。スタッフには撮影に鈴木達夫、音楽に中川俊郎などが名を連ねています。

物語とキャスト

物語は、特に目的もなくパリにいる日本人、浅野雄一（尾美としのり）、山尾鈴香（今井美樹）、岡本隆彦（嶋大輔）の3人が中心となります。彼らは国際コンサルタントを名乗る早乙女（原田芳雄）に勧められ、「便利屋」を開業することになります。当初は闇の仕事を示唆されますが、実際に行うのは引越しやガイドといったごく普通の依頼でした。

主要キャストとして、当時一連の大林宣彦監督作品で主演を務めることが多かった尾美としのりが、大林作品以外では珍しく主演級で出演しています。雑誌『シティロード』では「こんなにリリしい尾美くんは初めて」と評されましたが、演じたキャラクターは大林映画でのイメージと比較的近いものでした。山尾鈴香を演じた今井美樹は、本作公開後にブレイクを果たし、以降はテレビドラマや音楽活動を中心に活躍するようになるため、本作がその後の映画出演まで11年のブランクが生まれるきっかけの一つになったとも見られます。嶋大輔は岡本隆彦役で参加し、もぐりのツアコンとして観光客を案内するシーンなどが印象に残ります。早乙女役の原田芳雄は、若者たちに仕事を提供するキーパーソンとして登場します。その他、もたいまさこ、松岡一、平歩千佳らがキャストに名を連ねています。

パリの風景と独特な演出

映画の舞台は全編パリです。メトロの車窓風景から始まり、エッフェル塔の階段を駆け上がるシーンや、ルーヴル美術館内部での観光客案内の様子など、パリの有名観光地が効果的に映し出されます。セーヌ川なども登場し、異国情緒を醸し出しています。

演出面では独特のアプローチが見られます。物語の各エピソードが単純な時系列ではなく、暗示的な映像や、後の出来事を示唆するフラッシュバックのようなカットが挿入される手法が特徴的です。屋根の上を移動する尾美としのりや、ラスト近くで原田芳雄が忍者風のコスプレで屋根の上にいるシーンなど、現実と幻想が入り混じるような描写が見受けられます。こうした時間軸や「未来のフラッシュバック」を取り入れた演出は、2020年代のアニメなどでも見られるレトリックの先駆けとも捉えられます。また、外国人顧客はほとんど登場せず、パリにいながらも相手にするのは主に日本人である点も、作品の意図を考える上で興味深い点です。

作品の意図と評価

本作は、パリを舞台としながらも日仏の文化摩擦を描くのではなく、異国の地に溶け込もうとする外国人、特に日本人たちの生活に焦点を当てています。それは、第二次世界大戦後に日本の若者が半ば密航のようにヨーロッパを旅した時代のノスタルジーを、80年代に置き換えて表現しようとする試みであったと考えられます。評論では『ぴあ』が「在パリ日本人の実情を、日常的にリアルに描き出している」と評しています。

興行

『アラカルト・カンパニー』は、同じ幻燈社製作の『愛はクロスオーバー』と二本立てで配給されました。東映洋画系の劇場を中心に、都内7ヵ所以上で公開され、配収は1億円を記録しています。同時期に東映本番線で公開されていたのは『別れぬ理由』でした。

異国の地で生活を送る若者たちの日常を、ユニークな演出とパリの風景の中に描き出した一作と言えるでしょう。

もう一度検索