アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線

アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線 (ARIF)

アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線（Arakan Rohingya Islamic Front：ARIF）は、ミャンマー西部のラカイン州（旧称アラカン州）で活動した、ロヒンギャを主体とする反政府武装組織です。

結成の背景と目的

ARIFは1986年から1987年にかけての時期に誕生しました。当時活動していたロヒンギャの主要な武装組織、ロヒンギャ連帯機構（RSO）とロヒンギャ愛国戦線（RPF）が内部で分裂し、それぞれの組織の一部が合流することで結成されたのです。具体的には、元RSO議長であったヌルル・イスラーム氏に率いられたRSOの一派と、シャビル・フセイン氏が指導するRPFの一派が連携を深め、新たな組織としてARIFを立ち上げました。そして、ヌルル・イスラーム氏が初代議長の座に就任しました。

ARIFが設立にあたって掲げた最も重要な目標は、先行するロヒンギャ武装組織と同様に、ラカイン州北部にロヒンギャの人々が自決権を持つ自治区を樹立することでした。ヌルル・イスラーム議長は、この自治区建設を含む広範なビジョンとして、「（武装勢力の）多国籍」連合の実現と、「連邦主義に基づく繁栄した福祉国家、そこでは平和が永遠に続く」社会の構築を提唱しました。この理想を追求するため、ARIFはミャンマー国内の他の民主化勢力や、様々な民族グループの武装組織との連携を積極的に模索しました。

活動の展開と国軍の掃討作戦

1988年の全国的な民主化運動（8888民主化運動）を経てミャンマーの政情が不安定化する中、1980年代後半から1990年代前半にかけて、ARIFはRSOと協力し、ミャンマーと隣国バングラデシュの国境地帯で軍事訓練を開始し、武装活動を活発化させました。この動きは、ミャンマー国軍の強い警戒心を引き起こしました。

これに対し、国軍はARIFとRSOの軍事力を排除することを目指し、1991年から1992年にかけて大規模な軍事作戦を展開しました。この作戦は「清潔で美しい国作戦」（Operation Pyi Thaya）と名付けられ、国境地域のロヒンギャ住民に対して集中的な掃討が行われました。その結果、約25万人に及ぶ多数のロヒンギャの人々が安全を求めてバングラデシュへと避難することを余儀なくされ、大規模な難民問題が発生しました。

国軍による掃討作戦の後、ARIFはそれまでの武装闘争路線を継続することが困難となり、軍事活動の規模を大幅に縮小しました。これ以降、ARIFの活動の重点は武装闘争から、国際社会や様々な関係機関への働きかけを行う政治的なロビー活動へと移っていきました。

組織の終焉と再編

1990年代半ば、ロヒンギャ民族運動全体の連携を強化するため、武装勢力を結集しようとする動きが進みました。その流れの中で、1995年にはARIFがかつての母体の一つであるRSOと再合併することになりました。この合併によって、新たにロヒンギャ民族同盟（Rohingya National Organisation：RNO）が結成されました。さらに翌年の1996年、ロヒンギャ民族同盟（RNO）は発展的に解消され、ロヒンギャ民族評議会（RNC）とアラカン・ロヒンギャ民族機構（ARNO）という二つの新たな組織へと再編されました。これにより、ARIFという名称の組織としての活動は幕を閉じました。

ARIFの存続期間は比較的短かったものの、その活動は、ロヒンギャの人々が自らの権利と自治を求めて展開した武装闘争の一時期を象徴しています。また、国軍による激しい弾圧が大規模な難民流出を招いた事例として、後のロヒンギャ危機にも繋がる歴史的な出来事に関与した組織でもあります。その後の組織再編は、ロヒンギャ民族運動が様々な形態を取りながら継続していく過程を示しています。

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