清潔で美しい国作戦

清潔で美しい国作戦（Operation Clean and Beautiful Nation / Operation Pyi Thaya）は、1991年から1992年にかけてミャンマー国軍がラカイン州北部で展開した軍事作戦です。この作戦は、当時の複雑な国内情勢と国境周辺における様々な武装勢力の動きに対応するために実施されました。

背景

作戦が実行される直前、1990年から1991年にかけて、ミャンマー国軍はラカイン州に関するいくつかの重要な情報を掴んでいました。一つは、ラカイン族の新たな武装勢力であるアラカン軍（AA）が、他のラカイン族武装組織と合流するため、海上ルートで活動を開始したという情報です。彼らはカレン民族同盟（KNU）の支配地域からミャンマー、バングラデシュ、インドの三国国境地帯へ移動を図っていました。また、ロヒンギャ系の武装組織であるロヒンギャ連帯機構（RSO）とアラカン・ロヒンギャ・イスラーム戦線（ARIF）が、三国国境地域で新たな武器や資金を得て軍事訓練を強化しているという懸念もありました。さらに、KNUが戦略的に重要なエーヤワディー・デルタ地帯への再進出を試みているという情報も入っていました。これらの動きが現実となれば、カレン州からエーヤワディー地方域、そしてラカイン州へとつながる広範な地域で、反政府勢力による統一戦線が形成される危険性がありました。国軍はこうした情勢に対し、包括的な対策を講じる必要に迫られていたのです。

作戦の内容

国軍は、こうした情勢に対処するため、1991年から1992年にかけて大規模な軍事行動に乗り出しました。1991年4月には、ラカイン州のパウトーに上陸したアラカン軍（AA）に対し攻撃を仕掛け、他の武装勢力との合流を阻止しました。同年後半には、エーヤワディー地方域のボガレに侵入したカレン民族解放軍（KNLA）の小規模部隊を攻撃し、多数の兵士を殺害して部隊を壊滅させました。そして、特にラカイン州北部におけるロヒンギャ武装勢力であるRSOとARIFに対しては、「清潔で美しい国作戦」と名付けられた掃討作戦を展開しました。この作戦の遂行過程で、約25万人ものロヒンギャ住民が隣国バングラデシュへ避難しました。これは、1972年のナガーミン作戦による流出に次ぐ、ロヒンギャの歴史における二度目の大規模な難民流出となりました。

作戦の具体的な実施方法は完全には明らかになっていませんが、専門家による推測では、いくつかの要因が重なったとされています。一つは、三国国境地帯で勢力を伸ばしつつあったロヒンギャ武装勢力の鎮圧を目的とした住民調査の実施です。この際、正規の外国人登録証を持たない住民に対し、国外退去が勧告されたとみられています。また、1991年4月末にチッタゴン沿岸を襲ったサイクロンにより、バングラデシュからラカイン州に数万人の避難民が流入し、地元住民との間で軋轢が生じました。特に10月以降の稲の収穫期には、農産物を巡る住民間の争いが激化し、警察隊が出動して未登録住民を強制的に退去させたことが報告されています。こうした混乱の中で、ロヒンギャ武装勢力が騒乱を煽った結果、住民がパニック状態に陥り、大量の難民が発生した可能性が指摘されています。

影響とその後

「清潔で美しい国作戦」の遂行中、1991年12月にはミャンマー国軍が国境を越えてバングラデシュ軍の駐屯地を攻撃するという事件が発生し、両国間の大きな外交問題に発展しました。また、この難民流出は、1988年の民主化運動直後の出来事であったため、国際社会の大きな注目を集めました。これにより、「ロヒンギャ」という呼称とその存在が世界的に広く知られる契機となりました。

バングラデシュに流入したロヒンギャ難民は、コックスバザールの南部に設けられた仮設キャンプに収容されました。バングラデシュ政府は国際社会に支援を要請し、国連難民高等弁務官事務所（UNHCR）がキャンプの運営支援と、ミャンマー政府との間で難民帰還に向けた交渉を開始しました。国際社会からは様々な反応があり、例えば1991年の湾岸戦争でサウジアラビア軍司令官を務めたハリド・ビン・スルタン・アル・サウド王子は、1992年4月にバングラデシュを訪問した際に、クウェート解放のために行われた「砂漠の嵐作戦」のような軍事行動をミャンマーに対して取るべきだと示唆しましたが、これは実現しませんでした。最終的には、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の間で難民帰還に関する協定が締結され、UNHCRの支援のもと、約19万人のロヒンギャ難民がラカイン州へ帰還しました。

しかし、当時でも難民キャンプには約2万人が残り、キャンプ外にも10万人から15万人ものロヒンギャ難民が滞留していたとされています。これらの人々は厳しい状況に置かれ、人身売買の被害に遭ったり、過激派組織のリクルートの標的となったりしました。2001年頃のウサーマ・ビン・ラーディンや、アルカーイダに参加したアメリカ人ジョン・ウォーカー・リンドの発言などから、当時の国際的なジハード組織内にロヒンギャ出身者が存在していたことが示唆されています。彼らは主に危険な任務（地雷撤去や荷運びなど）に充てられ、一定の報酬が支払われ、戦死した場合には家族に手当が支給されていたと伝えられています。新兵は多くの場合、ネパール経由でパキスタンへ送られ、そこで軍事訓練を受けた後、アフガニスタンなどの戦闘地域に配属されたり、カシミールやチェチェンといった紛争地でイスラム過激派の下で戦ったりした者もいたとされています。この作戦とその結果としての難民流出は、その後のロヒンギャ問題の長期化と複雑化に大きな影響を与えました。

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