ロヒンギャ連帯機構
ロヒンギャ連帯機構（Rohingya Solidarity Organisation、略称: RSO）は、ミャンマーのロヒンギャ社会における政治的、あるいは軍事的活動を担う組織です。その設立は1982年、ミャンマー政府による国籍法改正によって多くのロヒンギャの人々が無国籍状態に置かれ、不法移民と見なされるようになった出来事が直接的な契機となりました。
RSOは、当時存在したロヒンギャ愛国戦線（RPF）の急進派メンバーによって創設されました。彼らは、武装闘争を開始しないRPFの姿勢に不満を抱き、独自の道を歩むことを選択しました。設立当初、議長には元弁護士のヌルル・イスラーム氏、副議長には医師のモハメド・ユヌス氏が就任しています。
RSOはRPFよりも厳格なイスラム主義路線を採り、バングラデシュのチッタゴン近郊に活動拠点となるキャンプを設置しました。サウジアラビアの慈善団体が支援するコックスバザールの難民キャンプの運営にも関与しつつ、バングラデシュのジャマーアテ・イスラーミー、アフガニスタンのヒズベ・イスラーミー・ヘクマティヤール派、インドのカシミール地方のヒズブル・ムジャーヒディーン、マレーシアのイスラーム青年運動といった国外のイスラム系組織と連携を深めました。特にアフガニスタンとは繋がりが深く、かつてソ連軍との戦闘経験を持つアフガニスタン人退役兵士がRSO兵士の教官を務め、およそ100名のRSOメンバーがアフガニスタンのホースト州でヒズベ・イスラーミー・ヘクマティヤール派から軍事訓練を受けたとされています。また、タイの武器商人から入手したRPGや機関銃、ライフルといった兵器をバングラデシュ国内の武装勢力に供給し、彼らに軍事訓練を提供する活動も行っていました。しかし、RSOの急速な武力路線への傾倒は、他のロヒンギャ指導者たちの反発を招き、結果としてミャンマー国内での本格的な武装闘争を開始することはできませんでした。
1986年から1987年にかけて、ヌルル・イスラーム氏率いるRSOの一部勢力は、RPFの残存メンバーと結集し、アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線（ARIF）を設立しました。こちらも武装闘争ではなく、ラカイン州北部におけるムスリム住民の自治領確立を目指す政治活動に主軸を置いています。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、RSOはARIFと共に新たな資金源を確保し、軍事訓練を強化することで組織力を大幅に増強しました。この動きを察知したミャンマー国軍は、「清潔で美しい国作戦」と呼ばれる掃討作戦を実行に移し、RSOとARIFの勢力を一掃しました。この作戦の結果、およそ25万人のロヒンギャ難民がバングラデシュへ流出しています。
大きな打撃を受けたRSOは再起を図り、1994年4月28日にマウンドーで爆弾テロ事件を企図しましたが、この事件は民間人に4名の死傷者を出しただけに終わり、逆に国軍の反撃を受けて約30名の兵士を失う結果となりました。この失敗を受けて、RSOは武装闘争路線に見切りをつけ、1995年にはARIFと合併してアラカン・ロヒンギャ民族機構（ARNO）を設立しました。さらに2000年には、長年の対立関係にあったラカイン族の武装組織連合であるアラカン民族統一党（NUPA）と連携し、アラカン独立同盟（AIA）を結成しました。これはロヒンギャとラカイン族が手を組む画期的な試みでしたが、皮肉にもこの同盟への対応を巡ってラカイン族内部の武装勢力間に亀裂を生じさせ、ひいてはロヒンギャとラカイン族間の対立を再び深める結果を招きました。
2003年には、バングラデシュ当局による大規模な取り締まりがあり、チッタゴンとコックスバザールにあったARNO事務所が捜索され、数百名のメンバーが銃器密売や麻薬密売の容疑で一斉検挙されました。これにより組織は壊滅的な打撃を受け、武装闘争からの引退を公式に表明せざるを得なくなりました。同年4月には、ARNOの軍事部門とされるロヒンギャ民族軍（RNA）がマウンドーの治安部隊事務所を二度にわたり襲撃し、少なくとも4名の警察官が死亡するという事件が発生しましたが、これ以降、組織的な武装活動は沈静化していきました。その後、ARNOから派生した三つのグループがそれぞれRSOを名乗り活動を継続したとされていますが、これらのグループはハルカトゥル・ジハード・アル・イスラーミー（HuJI）のようなバングラデシュの過激派組織と連携していると伝えられています。
2021年のミャンマークーデター発生後、国軍と国民防衛隊（PDF）、そして各地の少数民族武装勢力との間で衝突が拡大する中、2021年9月にRSOのチョーミントゥン少佐を名乗る人物がSNS上に動画を投稿しました。この動画の中で彼は、ロヒンギャの人々の権利を守るために国軍と戦うとして、武装闘争の再開を高らかに宣言しました。動画には、RSOの兵士とされる人々が軍事訓練を受けている様子も映し出されていました。しかし、「RSO」という名称は、特定の組織だけでなく、ロヒンギャの過激派活動を示す一種の「ブランド」として広く利用されているとの指摘もあり、この再開宣言を行ったグループがかつてのRSOと直接的な繋がりを持つのかどうかは不明確です。
2023年11月13日、ラカイン族の有力武装勢力であるアラカン軍（AA）が国軍との停戦合意を破棄したことにより、ラカイン州では再び激しい戦闘が始まりました。この際、ロヒンギャ系武装組織であるアラカン・ロヒンギャ救世軍（ARSA）、ロヒンギャ連帯機構（RSO）、アラカン・ロヒンギャ軍（ARA）などが、国軍の指揮下に入り、AAと対峙しました。現在、コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプでは、ARSAとRSOが主導権を巡って激しく対立しており、RSOが優勢であると報じられています。RSOは難民キャンプの若者たちを強制的に徴募し、国軍側に引き渡しているとも言われています。AAは、およそ20年間武装闘争から遠ざかっていたRSOが突如として活動を再開し勢力を拡大している状況に疑念を抱いており、バングラデシュ政府がRSOを支援しているのではないかと非難しています。
RSOが掲げる組織としての目標には、以下のような項目が含まれています。
「自由の獲得と故郷への帰還」
「抑圧からの解放」
「無国籍状態の解消と市民権の回復」
「人権の保障と自治の実現」
歴史
RSOは、当時存在したロヒンギャ愛国戦線（RPF）の急進派メンバーによって創設されました。彼らは、武装闘争を開始しないRPFの姿勢に不満を抱き、独自の道を歩むことを選択しました。設立当初、議長には元弁護士のヌルル・イスラーム氏、副議長には医師のモハメド・ユヌス氏が就任しています。
RSOはRPFよりも厳格なイスラム主義路線を採り、バングラデシュのチッタゴン近郊に活動拠点となるキャンプを設置しました。サウジアラビアの慈善団体が支援するコックスバザールの難民キャンプの運営にも関与しつつ、バングラデシュのジャマーアテ・イスラーミー、アフガニスタンのヒズベ・イスラーミー・ヘクマティヤール派、インドのカシミール地方のヒズブル・ムジャーヒディーン、マレーシアのイスラーム青年運動といった国外のイスラム系組織と連携を深めました。特にアフガニスタンとは繋がりが深く、かつてソ連軍との戦闘経験を持つアフガニスタン人退役兵士がRSO兵士の教官を務め、およそ100名のRSOメンバーがアフガニスタンのホースト州でヒズベ・イスラーミー・ヘクマティヤール派から軍事訓練を受けたとされています。また、タイの武器商人から入手したRPGや機関銃、ライフルといった兵器をバングラデシュ国内の武装勢力に供給し、彼らに軍事訓練を提供する活動も行っていました。しかし、RSOの急速な武力路線への傾倒は、他のロヒンギャ指導者たちの反発を招き、結果としてミャンマー国内での本格的な武装闘争を開始することはできませんでした。
1986年から1987年にかけて、ヌルル・イスラーム氏率いるRSOの一部勢力は、RPFの残存メンバーと結集し、アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線（ARIF）を設立しました。こちらも武装闘争ではなく、ラカイン州北部におけるムスリム住民の自治領確立を目指す政治活動に主軸を置いています。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、RSOはARIFと共に新たな資金源を確保し、軍事訓練を強化することで組織力を大幅に増強しました。この動きを察知したミャンマー国軍は、「清潔で美しい国作戦」と呼ばれる掃討作戦を実行に移し、RSOとARIFの勢力を一掃しました。この作戦の結果、およそ25万人のロヒンギャ難民がバングラデシュへ流出しています。
大きな打撃を受けたRSOは再起を図り、1994年4月28日にマウンドーで爆弾テロ事件を企図しましたが、この事件は民間人に4名の死傷者を出しただけに終わり、逆に国軍の反撃を受けて約30名の兵士を失う結果となりました。この失敗を受けて、RSOは武装闘争路線に見切りをつけ、1995年にはARIFと合併してアラカン・ロヒンギャ民族機構（ARNO）を設立しました。さらに2000年には、長年の対立関係にあったラカイン族の武装組織連合であるアラカン民族統一党（NUPA）と連携し、アラカン独立同盟（AIA）を結成しました。これはロヒンギャとラカイン族が手を組む画期的な試みでしたが、皮肉にもこの同盟への対応を巡ってラカイン族内部の武装勢力間に亀裂を生じさせ、ひいてはロヒンギャとラカイン族間の対立を再び深める結果を招きました。
2003年には、バングラデシュ当局による大規模な取り締まりがあり、チッタゴンとコックスバザールにあったARNO事務所が捜索され、数百名のメンバーが銃器密売や麻薬密売の容疑で一斉検挙されました。これにより組織は壊滅的な打撃を受け、武装闘争からの引退を公式に表明せざるを得なくなりました。同年4月には、ARNOの軍事部門とされるロヒンギャ民族軍（RNA）がマウンドーの治安部隊事務所を二度にわたり襲撃し、少なくとも4名の警察官が死亡するという事件が発生しましたが、これ以降、組織的な武装活動は沈静化していきました。その後、ARNOから派生した三つのグループがそれぞれRSOを名乗り活動を継続したとされていますが、これらのグループはハルカトゥル・ジハード・アル・イスラーミー（HuJI）のようなバングラデシュの過激派組織と連携していると伝えられています。
2021年クーデター後の動向
2021年のミャンマークーデター発生後、国軍と国民防衛隊（PDF）、そして各地の少数民族武装勢力との間で衝突が拡大する中、2021年9月にRSOのチョーミントゥン少佐を名乗る人物がSNS上に動画を投稿しました。この動画の中で彼は、ロヒンギャの人々の権利を守るために国軍と戦うとして、武装闘争の再開を高らかに宣言しました。動画には、RSOの兵士とされる人々が軍事訓練を受けている様子も映し出されていました。しかし、「RSO」という名称は、特定の組織だけでなく、ロヒンギャの過激派活動を示す一種の「ブランド」として広く利用されているとの指摘もあり、この再開宣言を行ったグループがかつてのRSOと直接的な繋がりを持つのかどうかは不明確です。
2023年11月13日、ラカイン族の有力武装勢力であるアラカン軍（AA）が国軍との停戦合意を破棄したことにより、ラカイン州では再び激しい戦闘が始まりました。この際、ロヒンギャ系武装組織であるアラカン・ロヒンギャ救世軍（ARSA）、ロヒンギャ連帯機構（RSO）、アラカン・ロヒンギャ軍（ARA）などが、国軍の指揮下に入り、AAと対峙しました。現在、コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプでは、ARSAとRSOが主導権を巡って激しく対立しており、RSOが優勢であると報じられています。RSOは難民キャンプの若者たちを強制的に徴募し、国軍側に引き渡しているとも言われています。AAは、およそ20年間武装闘争から遠ざかっていたRSOが突如として活動を再開し勢力を拡大している状況に疑念を抱いており、バングラデシュ政府がRSOを支援しているのではないかと非難しています。
組織のヴィジョン
RSOが掲げる組織としての目標には、以下のような項目が含まれています。
「自由の獲得と故郷への帰還」
「抑圧からの解放」
「無国籍状態の解消と市民権の回復」
「人権の保障と自治の実現」
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