ロヒンギャ愛国戦線

ロヒンギャ愛国戦線（RPF）

ロヒンギャ愛国戦線（Rohingya Patriotic Front：RPF）は、1960年代半ばから1980年代後半にかけて、ミャンマー西部ラカイン州北部、特にバングラデシュとの国境地帯で活動した、ロヒンギャの人々を主体とする反政府武装組織です。この組織は、後にロヒンギャ独立軍（RIA）やロヒンギャ独立戦線（RIF）といった名称も使用しました。ロヒンギャという名称を冠した最初の武装組織であったと考えられています。

設立の背景

RPFの前身であるRIFが設立された背景には、1962年に発生した軍事クーデターによって成立したネ・ウィン将軍率いるビルマ連邦革命評議会による統治があります。この軍事政権は、ビルマ社会主義計画党（BSPP）による一党独裁、国有化を軸とする統制経済、そして非同盟・中立を旨とする閉鎖的な外交政策を特徴としていました。政権はこれらの政策を推進するため、「土着民族（タインインダー）」を重視し、国家への忠誠が低いと見なされた人々を排除する方向へと進みました。この過程で、行政や教育におけるミャンマー語の使用が強制され、非ミャンマー語の出版物が禁止されるなど、同化主義的な政策が強力に推し進められました。これらの政策は、ロヒンギャの人々に大きな影響を与えました。公職から排除される者が出たり、ロヒンギャ語のラジオ放送が停止されたり、「ロヒンギャ」の名を冠した既存の組織が解散を余儀なくされたりしたと伝えられています。

ロヒンギャ独立戦線（RIF）の活動

このような状況下、1964年4月26日、ヤンゴン大学の学生であったムハンマド・ジャファル・ハビブ（通称B.A.ジャファル）を中心に、ロヒンギャ独立戦線（RIF）が結成されました。この組織は、軍事政権への反対と、ラカインにおけるロヒンギャ自治区の設立を主な目的としていました。ダッカ出身でパキスタン大使館の推薦でヤンゴン大学に入学したジャファルは、ミャンマー語が不得手でしたが、ロヒンギャ学生機構（RSO）の会長を務めるなど活動的でした。RIFのメンバーは「ラジャ」と呼ばれ、伝統に倣って名目上の最高指導者（Grand Raja）には、親交のあったムスリム系の国会議員スルタン・ムハンマドが迎えられました。

RIFの初期の取り組みは、ムスリム諸国にロヒンギャの窮状を訴えるロビー活動でした。ジャファルはパキスタンの大統領に面会を試み、外務大臣を通じてミャンマー側に書簡を送ることに成功しました。その後も、ジャファルを含む数名のメンバーがダッカやカラチを訪れ、アラブ諸国へ支援を求めました。サウジアラビア大使との面会は成果がありませんでしたが、他の国の大使からは好意的な反応を得て、現地のメディアにも活動が報じられました。しかし、具体的な支援や進展はほとんど得られませんでした。

RIFはまた、かつてムジャーヒディーンとして活動し、後にロヒンギャ解放党（RLP）として再組織されていたグループとも交流を持っていました。RIFの若いメンバーはRLPに参加して戦闘経験を積むなど、武装闘争の準備も進められました。1971年には、B.A.ジャファルを含む多くのRIFメンバーがRLPに合流しましたが、1973年頃にはRLPは劣勢に追い込まれ、ラカイン州内の拠点を失いつつありました。

ロヒンギャ愛国戦線（RPF）の結成と分裂

RLPの活動が低迷する中、RIFは新たな武装組織を結成することを決定しました。当初、RLPに関わっていた人物をリーダーに据える案もありましたが、RIFの後援者たちの反対により、引き続きB.A.ジャファルがリーダーを務めることになりました。こうして1973年9月12日、ロヒンギャ愛国戦線（RPF）が結成されました。RPFには、壊滅状態となったRLPの残党に加え、ヤンゴンから参加した医師や弁護士、高学歴の若者など、多様な人材が加わりました。

しかし、RPFは武装闘争を本格化させるための武器や弾薬の確保に苦慮し、具体的な活動に進展が見られませんでした。この状況に一部のメンバーは不満を募らせ、1975年頃からジャファルのリーダーシップに対する疑問が生じ始めました。1978年にミャンマー政府が行った「ナガーミン作戦」によって多数のロヒンギャがバングラデシュへ流出する事態が発生した際、RPFが効果的な対応を取れなかったことも、組織内の不和を深めました。同年、資金調達のためにサウジアラビアへ代表団を派遣し、一定の寄付を得ることはできましたが、それが組織の運動を大きく前進させるには至りませんでした。

1982年の国籍法改正により、多くのロヒンギャが無国籍状態に置かれたことを契機に、RPFはついに分裂しました。元弁護士のヌルル・イスラームや医師のモハメド・ユヌスらはRPFの強硬派を率いて、ロヒンギャ連帯機構（RSO）を結成しました。1984年11月のイスラム外相会議にはRPFとRSOの双方が参加し、それぞれ異なる主張を展開しました。RPFは「ビルマ連邦内でのロヒンギャ自治州創設に向けたジハード」を、RSOは「アラカン州における反ムスリム感情の継続」を訴えました。

1986年から1987年にかけて、RPFはさらに分裂を繰り返し、離脱したグループの一部はRSOの一派と同盟し、アラカン・ロヒンギャ・イスラム戦線（ARIF）を結成しました。これにより、RPFは事実上、その活動を終えることとなりました。B.A.ジャファルはその後も新たな武装組織の結成を模索しましたが、1987年11月6日、病のためその生涯を閉じました。

RPFとその前身組織は、ロヒンギャの人々が自らのアイデンティティを守り、権利を求める上で、初期の武装闘争や国際社会への訴えかけを行った歴史的に重要な組織であったと言えます。しかし、組織内の対立や外部からの支援の不足、そしてミャンマー政府の強硬な姿勢により、その目的を達成することはできませんでした。活動期間は限定的でしたが、その後のロヒンギャの民族運動に影響を与えた存在として歴史に刻まれています。

もう一度検索