アラニンアミノ基転移酵素

アラニンアミノ基転移酵素（ALT）

アラニンアミノ基転移酵素（Alanine transaminase, ALT）は、かつてはグルタミン酸ピルビン酸転移酵素（Glutamic Pyruvic Transaminase, GPT）とも呼ばれていた酵素です。この酵素は、私たちの体内でアミノ酸であるアラニンと、エネルギー代謝に関わるピルビン酸との間でアミノ基をやり取りする化学反応を触媒しています。具体的には、ピルビン酸とアミノ酸の一種であるグルタミン酸から、アラニンとα-ケトグルタル酸を生成する反応、およびその逆反応を促進する働きを担っています。

体内での分布と臨床的意義

ALTは体の様々な組織の細胞に含まれていますが、特に肝臓の細胞に非常に豊富に存在しています。このため、肝臓の細胞が病気などで障害を受け、細胞膜が壊れたり透過性が高まったりすると、細胞内にあるALTが血液中に流れ出してきます。このような細胞内から血液中に逸脱する酵素を「逸脱酵素」と呼びますが、ALTはこの代表的な例の一つです。血液中のALT濃度を測定することは、肝細胞がどの程度損傷を受けているかを知る上で非常に重要な指標となります。

臨床検査での利用

逸脱酵素としての性質から、血液検査で測定される血清ALT濃度は、肝臓の障害、特に肝細胞の破壊や炎症の程度を評価するために広く利用されています。ALTの値が高いほど、肝細胞の損傷が強く疑われます。ただし、肝疾患が非常に進行し、肝細胞自体が極端に減少してしまったような末期の状態では、かえってALTの値が低くなる場合もあります。

同じく肝機能の指標としてよく用いられる酵素にアスパラギン酸アミノ基転移酵素（AST、旧称GOT）がありますが、ALTはASTに比べて肝臓以外の臓器の障害ではあまり上昇しないため、より肝臓に特異的な指標とされています。しかし、臨床においてはALTだけでなくASTの値も同時に測定し、両者のバランス（AST/ALT比）を評価することが、原因となる肝疾患の種類を特定する上で重要な情報となる場合があります。

基準値と異常値

ALTの基準値は、検査を行う施設によって多少異なりますが、一般的には5～40 IU/l（国際単位/l）程度とされています。もし測定値が51 IU/l以上の場合、詳しい検査（精密検査）を受けることが推奨されます。特に100 IU/lを超えるような高い値が出た場合は、早急に医療機関を受診する必要があります。しかし、注意すべき点として、たとえALTの値が基準値内に収まっていたとしても、必ずしも肝臓が完全に正常であるとは限りません。また、前述のように検査機関によって基準値が異なる現状があり、基準値を統一する必要性が指摘されています。

ALTの異常高値は、様々な肝疾患で認められます。通常、健康な人ではALTがASTよりやや高めの値を示すことが多いとされます。肝炎（ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎など）、脂肪肝、肝硬変、肝臓の腫瘍（肝がんなど）といった肝臓の病気では、ALTの値が100 IU/lを超えることが多く、場合によっては500 IU/l以上を示すこともあります。これらの疾患の中でも、アルコール性肝炎や肝硬変、肝腫瘍ではASTの値がより顕著に上昇する傾向がありますが、ウイルス性肝炎や脂肪肝ではALTの値がより高く出やすいとされています。ただし、非アルコール性脂肪性肝疾患（NAFLD/NASH）のように、ALTの目立った上昇がないにもかかわらず、肝硬変や肝臓がんに進行する場合もあるため、注意が必要です。また、米国肝臓学会のNAFLD/NASHに関するガイドラインでは、30 U/Lを超えるALT値を異常とみなすべきケースがあることも指摘されています。

ALTの測定は、肝機能の状態を知るための基本的な検査であり、健康診断や様々な病気の診断、治療効果の判定に不可欠な情報を提供します。異常値が認められた場合は、必ず専門医の診断を受け、適切な対応をとることが重要です。

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