アラブ・ハザール戦争

アラブ・ハザール戦争

アラブ・ハザール戦争は、7世紀から8世紀にかけて、ハザールと正統カリフ、ウマイヤ朝、アッバース朝などのイスラム勢力との間で行われた一連の戦争です。主に南コーカサスと北コーカサスの支配権を巡り、2つの期間に分けて語られます。第一次アラブ・ハザール戦争は642年から652年頃、第二次アラブ・ハザール戦争は722年から737年頃に発生しました。

戦争の背景

この戦争は、遊牧民国家であるハザールと、定住者を基盤とするイスラム帝国の衝突という側面を持ちます。コーカサス山脈は、遊牧民の世界と定住民の世界を隔てる境界線であり、ダリアル峠とデルベントは重要な交通路でした。この地域を巡り、古来より様々な民族が争奪戦を繰り広げてきました。

ハザールはテュルク系民族と考えられ、7世紀までに北コーカサスで勢力を拡大しました。一方、イスラム帝国はサーサーン朝やビザンツ帝国の後継者を自認し、コーカサス地域を支配下に置くことを目指しました。アラブ人は、自身を「文明世界を北方の野蛮人から守る」存在と捉え、ハザールを「戦争の家」と見なしました。ハザールは南コーカサスの交通路を支配することに戦略的な重要性を見出していました。

戦争の経過

第一次アラブ・ハザール戦争 (642年 - 652年頃)

最初のアラブ軍の侵攻は、652年にバランジャルでハザール軍に敗北したことで終結しました。

第二次アラブ・ハザール戦争 (722年 - 737年頃)

710年代に戦争が再開され、アラブ軍はデルベントとバランジャルを占領しましたが、ハザールの遊牧民的な性質から決定的な打撃を与えることができませんでした。730年にはハザール軍がアルダビールの戦いでウマイヤ朝軍に勝利しましたが、翌年には敗北し、北へ押し戻されました。737年、マルワーン2世はヴォルガ川沿いのハザールの首都イティルに侵攻し、ハザールのカガンに服属を認めさせました。

戦争の結果と影響

737年のマルワーンの遠征は、大規模な戦争に終止符を打ち、アラブ人は南コーカサスの支配を確保しました。しかし、長引く戦争はウマイヤ朝の軍事力を弱体化させ、後の内戦と王朝崩壊の一因となりました。コーカサスにおけるイスラム勢力とハザールの関係は、その後概ね平穏な状態が続きましたが、760年代と799年にはハザールの侵攻が発生しました。10世紀後半にハザールが崩壊するまで、コーカサスでは紛争が散発的に発生しました。

アラブ・ハザール戦争は、7世紀から8世紀にかけてのコーカサス地域における勢力図を大きく塗り替える出来事でした。この戦争は、遊牧民と定住民の衝突、宗教的な対立、そして戦略的な思惑が複雑に絡み合った結果として発生しました。この戦争は、ウマイヤ朝の衰退を早め、ハザールの命脈を繋ぐことになったと言えるでしょう。

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