マルワーン2世

マルワーン2世：ウマイヤ朝最後のカリフ

マルワーン2世（691年？ - 750年）は、ウマイヤ朝の第14代カリフ（在位744年 - 750年）であり、マルワーン1世の孫にあたります。彼の治世は、ウマイヤ朝の衰退と崩壊の時代であり、各地での反乱とアッバース革命という未曽有の危機に直面しました。

生涯

即位前のマルワーン2世は、12年間アルメニア・アゼルバイジャンの総督を務め、その優れた軍事的能力を発揮しました。ヒシャームの時代には、兄弟であるアルメニア総督マスラマの下でハザール人との戦いで数々の軍功を挙げ、その名を高めました。総督就任後も、ハザールの勢力圏への侵攻を繰り返し、ハザールの首長をイスラームに改宗させるなど、その勢力を大きく後退させました。

744年、ヤズィード3世がワリード2世を殺害してカリフに即位すると、マルワーン2世はワリード2世の遺児を擁立するためにシリアへ進軍を開始しました。ヤズィード3世の急死後、弟のイブラーヒームがカリフを継承しましたが、マルワーン2世はこれを認めず、イブラーヒーム軍を撃破してダマスカスに入城します。しかし、ワリード2世の子は既に殺害されており、ダマスカスは無政府状態に陥っていました。マルワーン2世は市民から事態の収拾を期待され、カリフとして迎え入れられました。

カリフとして

カリフに即位したマルワーン2世は、カイス族の支持を得て本拠地をダマスカスからメソポタミアのハッラーンに移しました。しかし、この決定はシリアの住民を失望させ、各地で反乱が発生します。同時期にハワーリジュ派も反乱を起こし、さらにビザンツ帝国がアナトリア半島に侵入するなど、ウマイヤ朝は内外の脅威に晒されました。マルワーン2世は、これらの反乱を鎮圧するために奔走し、メソポタミア、ヒジャーズなどで勝利を収めました。

しかし、747年にホラーサーン地方でアッバース家が指導する武装蜂起（アッバース革命）が勃発すると、ウマイヤ朝の命運は尽きようとしていました。ホラーサーン軍は西方へ進軍を開始し、749年にはクーファを占拠、アッバース家のアブー・アル＝アッバース（サッファーフ）がカリフを宣言しました。

750年、マルワーン2世は軍を率いてアッバース軍と大ザーブ川で決戦に臨みますが、大敗を喫し、シリア、パレスチナへと敗走。最終的にエジプトのブーシールでアッバース軍に発見され、討ち取られました。彼の死は、ウマイヤ朝の終焉を意味しました。

人物像

マルワーン2世は、「ロバ」を意味するアル＝ヒマールの渾名で呼ばれていました。これは、彼の忍耐強い性格や、シャクヤクの花を好んだことに由来すると言われています。禁欲的な性格で、軍中では一般兵士と同様の生活を送っていたと伝えられています。また、古代史に強い関心を持ち、周囲に歴史を講じることがあったそうです。

軍事面では、従来の横列陣形（スフーフ）から、機動力を重視した小部隊の陣形（カラーディス）へと転換した人物としても知られています。

マルワーン2世は、ウマイヤ朝の滅亡という悲劇的な結末を迎えましたが、その生涯は激動の時代を生き抜いたカリフとして、歴史に深く刻まれています。

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