アラン・スミシー

アラン・スミシーとは

アラン・スミシー（Alan Smithee）は、1968年から1999年にかけてアメリカ映画で使われた架空の映画監督の名前です。公式には2000年に使用が停止されました。

この名前は、映画制作中に監督が何らかの理由で降板したり、作品の出来に責任を負いたくない場合に、監督名の代わりにクレジットされる偽名として使われました。全米監督協会（Directors Guild of America; DGA）の厳格な規定に基づいて使用が許可されていました。

アラン・スミシーの誕生

ハリウッドの映画監督たちは、全米監督協会という労働組合を組織しています。これは、映画会社やプロデューサーに対して監督の権利を守るためのものでした。その権利の一つに「映画には監督の名前を必ずクレジットする」というものがあり、これは監督が作品の成功に対する功労者として認知されるために非常に重要なものでした。

しかし、同時に監督は作品の失敗に対しても責任を負う必要がありました。そのため、全米監督協会は監督が勝手にクレジットから名前を外すことを許可していませんでした。ただし、監督の意図に反する編集が行われ、作品の責任を負うことができない場合に限り、協会は監督からの訴えを受けて「アラン・スミシー」という偽名の使用を許可しました。

この偽名の最初の使用例は、1969年に公開された映画『ガンファイターの最後』でした。この作品では、監督と主演俳優の対立により、最終的に両方の監督がクレジットを拒否しました。全米監督協会は、映画には監督名が必要であるため、「アラン・スミシー」という偽名を提案しました。

この名前の由来については、「The Alias Men（偽名の人々）」のアナグラムであるという説もありますが、実際には、当初「アル・スミス」という名前が提案されたものの、同名の実在の監督がいたため却下され、最終的に、実在しないように思われる、しかし目立たない名前として「アラン・スミシー」が選ばれました。

アラン・スミシーの終焉

アラン・スミシーは、当初は無名の存在でしたが、次第に「トラブルがあった映画の偽名」として知られるようになり、その意味を失っていきました。

1997年には、アラン・スミシーを題材にしたコメディ映画『アラン・スミシー・フィルム』が公開されましたが、この映画自体も編集を巡るトラブルでアラン・スミシー名義となり、話題となりました。これらがきっかけとなり、全米監督協会はアラン・スミシーの使用を中止しました。

また、『アメリカン・ヒストリーX』の監督であるトニー・ケイが、自身の名前を外すためにスミシー名義の使用を求めたものの、監督が降板理由を公に語っていたために却下された事件も、スミシーの終焉に影響を与えたとされています。

2000年以降、全米監督協会は、個々の案件ごとに異なる偽名を使用するようになりました。その最初の例が、映画『スーパーノヴァ』で使われた「トーマス・リー」という名前でした。

ただし、アメリカ国外では、いまだにアラン・スミシーの名前が使われることがあります。

主なアラン・スミシー名義の作品

ガンファイターの最後（1969年）：アラン・スミシー名義の最初の作品。
夏の日にさよなら（1968年/1973年）：ジャド・テイラー監督作品。
ミッキー・ローク／ロサンゼルス美女連続殺人（1980年）：ジャド・テイラー監督作品。
ハリー奪還（1986年）：スチュアート・ローゼンバーグ監督作品。
クライシス2050（1990年）：リチャード・C・サラフィアン監督作品。
ハートに火をつけて（1991年）：デニス・ホッパー監督作品。
ヘルレイザー4（1996年）：ケヴィン・イェーガー監督作品。
アラン・スミシー・フィルム（1998年）：アーサー・ヒラー監督作品。
美しき家政婦ウーマン・ウォンテッド（2000年）：キーファー・サザーランド監督作品。

その他、テレビ放送用に短縮された映画作品などでもアラン・スミシー名義が使われたことがあります。

日本におけるアラン・スミシー

日本でも、アラン・スミシーは本来の用法で使われたことがあります。例えば、映画『ガンヘッド』はアメリカ向けに再編集された際、監督の意向でアラン・スミシー名義となりました。

また、日本のアニメ業界では、1998年頃からアラン・スミシーをもじった名前が使われるようになりました。これは、制作上のトラブルで監督が降板したり、名前を出すことを拒否した場合に使われます。ただし、全米監督協会とは関係がないため、名前は「阿乱須美志」や「角石阿蘭」など、様々なバリエーションがあります。

アニメでの使用例:

ガサラキ（1998年）
イケてる2人（1999年）
銀装騎攻オーディアン（2000年）
こちら葛飾区亀有公園前派出所（2002年）
R.O.D -THE TV-（2003年）
真月譚月姫（2003年）
LAST EXILE（2003年）
光と水のダフネ（2004年）
エイケンエイケンヴより愛をこめて（2004年）
銀盤カレイドスコープ（2005年）
夜明け前より瑠璃色な -Crescent Love-（2006年）
爆球Hit! クラッシュビーダマン（2006年）
史上最強の弟子ケンイチ（2006年）
吉永さん家のガーゴイル（2006年）
Canvas2 〜虹色のスケッチ〜（2006年）
練馬大根ブラザーズ（2006年）
錬金3級まじかる?ぽか〜ん（2006年）
奏光のストレイン（2007年）
ながされて藍蘭島（2007年）
sola（2007年）
BLUE DROP 〜天使達の戯曲〜（2007年）
逮捕しちゃうぞフルスロットル（2007年）
うたの☆プリンスさまっ♪マジLOVE2000％（2013年）
ガンスリンガーストラトス-THE ANIMATION-（2015年）
ジョーカー・ゲーム（2016年）
この素晴らしい世界に祝福を!（2016年）
球詠（2020年）

アラン・スミシーをもじったペンネーム

アラン・スミシーをもじったペンネームも存在します。例えば、自主映画監督の荒木スミシや、アニメーターの森山雄治が使用する阿藍隅史などが挙げられます。

派生的な用例

映画やアニメ以外にも、アラン・スミシーは派生的な使われ方をしています。例えば、映画『イニシエーション・ラブ』では、シークレットキャストのクレジットに「亜蘭澄司」が使われました。

また、「ワイルドアームズ」シリーズでは、「出自の分からない渡り鳥（冒険者）」を指す言葉として使われています。さらに、『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』では、架空の国の工作員がアラン・スミシーを名乗っています。

参考事例：名義の不表記

アラン・スミシー以外にも、制作上の都合で監督や脚本家の名前がクレジットされない場合があります。例えば、映画『アマルフィ女神の報酬』では、脚本家が名前を出すことを拒否したため、脚本のクレジットがありません。

参考事例：同様の事態における「アラン・スミシー」以外の偽名

アニメ『ふしぎの海のナディア』では、作画監督が「空母そ・そ・そ・そ」という偽名を使用しました。これは、アラン・スミシーのような事情があったことを示唆しています。

結論

アラン・スミシーは、映画業界における制作の裏側や、クリエイターの権利と責任について考えさせられる興味深い事例です。この偽名が使われなくなった今でも、その存在は映画史に名を刻み、様々な形で後世に語り継がれています。

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