アルシエティナ水道

アルシエティナ水道（Aqua Alsietina）

アルシエティナ水道は、古代ローマ時代に造られた主要な水道（ローマ水道）の一つです。ラテン語ではAqua Alsietinaと呼ばれ、後にAqua Augustaという別名でも知られるようになりました。この水道は、紀元前2年頃、ローマ帝国の初代皇帝であるアウグストゥス帝の治世下に建設されました。

この水道の特徴的な点として、ローマ市内においてテヴェレ川の右岸地域、すなわちトランス・ティベリム地区への給水を目的に造られたことが挙げられます。当時、テヴェレ川右岸には他の水道が少なく、特に古い水道としてはアルシエティナ水道が重要な位置を占めていました。

水道の起点は、ローマの北西およそ40キロメートルに位置するブラッチャーノ湖の周辺地域に求められました。古代の水道技術者であり、後にローマ水道長官も務めたセクストゥス・ユリウス・フロンティヌスの詳細な記録によれば、この水道の総延長はおよそ32.8キロメートル（ローマ・マイル換算で22.172マイル）に及びます。

アルシエティナ水道の構造は、他の多くのローマ水道とは異なり、大部分が地下に掘られた導水渠で構成されていました。具体的には、全長のうち約32.3キロメートル（21.814マイル）が地下を通り、地上にアーチを連ねるような水道橋上の導水渠はわずか約0.53キロメートル（0.358マイル）に過ぎませんでした。これは、地形的な要因や建設コストなどが考慮された結果と考えられます。

フロンティヌスの記録からは、アルシエティナ水道が供給できた水量も知ることができます。一日あたり約15,680立方メートル（換算で392クイナリア）という規模でした。この水は主にテヴェレ川右岸エリアに供給されました。

しかし、供給される水の水質は飲用には適していませんでした。そのため、この水道の水は主に特定の目的に利用されました。最も重要な用途の一つは、アウグストゥス帝が造営したナウマキア・アウグスティという模擬海戦用の施設への給水でした。ここでは大規模な海戦ショーが開催され、大量の水を必要としたのです。また、農地への灌水など、生活用水や飲用以外の用途にも利用されたと考えられています。

中世以降に改修され、現在もパオラ水道として一部機能している水道施設は、しばしばアルシエティナ水道の修復版と誤解されることがあります。しかし、これは正確ではありません。現在パオラ水道と呼ばれる施設は、実はアルシエティナ水道よりも後の時代に建設されたトライアーナ水道の施設を改修・再利用したものです。両者は水源や建設時期、当初の用途が異なりますので、混同しないよう注意が必要です。

アルシエティナ水道は、その水質から飲用には使われなかったものの、当時のローマ市民の娯楽や非飲用目的において重要な役割を果たした水道であり、古代ローマの高度な土木技術を示す一例と言えます。

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