アルゼンチン経済の歴史

アルゼンチン経済の歴史：パラドックスとペロン主義

アルゼンチン経済の歴史は、経済学において特異な研究対象です。20世紀初頭に目覚ましい発展を遂げたにもかかわらず、その後急速に衰退し、先進国（農業・畜産業国）から発展途上国へと転落した唯一の国であるため、「アルゼンチンのパラドックス」と呼ばれています。その原因については、様々な分析がなされてきました。

概要

アルゼンチンは、1816年のスペインからの独立以降、8度の債務不履行（デフォルト）を経験しています。インフレ率も頻繁に2桁に達し、最高で5000%ものハイパーインフレに見舞われ、大幅な通貨切り下げを繰り返してきました。1930年代の世界恐慌までは安定した国家でしたが、以降は不安定な国として知られています。1962年までは、1人当たりのGDPがスペイン、オーストラリア、イタリア、日本よりも高かったにもかかわらず、です。

1930年代から1970年代にかけて、各政権は「経済の自給自足」を目指し、輸入代替政策を推進しました。しかし、政府が工業発展を奨励したことで資本が分散し、農業生産は減少しました。輸入代替政策は1976年まで続きましたが、政府支出の増大、大幅な賃上げ、生産性の悪化により、慢性的なインフレが発生しました。ペロン主義政権時の左派ポピュリズム政策による放漫財政も、アルゼンチン経済に悪影響を及ぼしました。

世界恐慌以前

アルゼンチンは世界第8位の広大な国土と肥沃なパンパスに恵まれ、農業において比較優位性を持っていました。独立戦争によってペルーを失い、大西洋自由貿易からの利益で代替しようとしましたが、独立後の政治的混乱により、1827年にはデフォルトに陥りました。債務整理には40年近くを要し、長期的なペソ下落とインフレに悩まされました。

国家体制が確立し、パタゴニアの開発が進むと、経済は安定し、ヨーロッパ諸国からの投資を受け入れ、農作物を輸出する国際分業体制が確立しました。スペイン、イタリア、ポルトガルなどからの移民を労働力として受け入れ、1860年から1930年にかけて経済成長を遂げました。20世紀前半の30年間で、人口、総所得、1人当たり国民所得はカナダやオーストラリアを上回りました。1913年には、1人当たり国民所得で世界トップ10に入る裕福な国となり、1929年には世界第5位の経済大国に発展しました。

世界恐慌の影響

1929年の世界恐慌が発生し、アルゼンチンはイギリス連邦経済圏に参入し経済的に従属しました。これに対する不満から1930年にクーデターが勃発し、初の軍事政権が誕生し、70年間の立憲政治は終わりを迎えました。

ペロン政権とその影響

1946年にフアン・ペロン政権が成立し、外国資本の排除、産業国有化、福祉・公共支出の拡大、現金給付、賃上げなどの政策を推進しました。これは、アルゼンチン・ナショナリズム、左派ポピュリズム、左翼的ファシズム政策であり、南米における左派ポピュリズムの元祖とも言えます。第二次世界大戦時の輸出で得た外貨をこれらの政策に費やしましたが、すぐに使い果たしました。1949年頃にはアメリカやカナダの増産により食糧輸出が不振となりインフレが発生し、ペロンは苦境に立たされました。1952年の再選後、妻の死や離婚法の制定により支持を失い、1955年の軍事クーデターで追放され、スペインに亡命しました。

軍事政権時代

1976年のクーデターにより軍事政権が再び成立し、1983年までの独裁政権時代に成立した法案が、莫大な対外債務を発生させる原因となりました。1982年にはフォークランド紛争を起こしました。

民政移管後

フォークランド紛争での敗北により軍事政権が崩壊し、1983年に民政移管しました。1990年代初頭には、インフレ抑制のためにアルゼンチン・ペソを米ドルと同価値にする制度改革を行い、国有企業を民営化してその収入を債務圧縮に充てました。しかし、2000年から2001年にかけて債務危機の懸念が高まり、金融危機と通貨危機が併発し、対外債務デフォルトに追い込まれました。2002年初頭からは、変動為替相場制度に移行しました。

2000年代半ばには経済成長が注目されましたが、2007年以降の左派政権が貿易保護主義やバラマキ政策に回帰したことで経済不振に陥り、再び債務不履行に陥り、ペソの切り下げを余儀なくされました。2015年には中道右派のマクリが大統領に当選しましたが、経済状況は改善せず、2019年にはペロン主義者のフェルナンデスに政権を譲りました。2020年4月には事実上9度目のデフォルト状態に陥っています。

アルゼンチンの左派政権は、ポピュリズム政策を続け、国民は高インフレと高貧困率に苦しんでいます。そのため、2023年には右派のミレイが大統領に当選し、「最小政府」を掲げる政治家に権力が委ねられました。

スペイン植民地時代

スペイン帝国の一部であったメキシコやペルーに比べると、植民地時代に今日のアルゼンチンにあたる土地には経済的利点は少なく、スペインの植民地経済においても軽んじられていました。金鉱などの地下資源もなく、エコミエンダ制を敷くほど原住民もいませんでした。

しかし、18世紀半ばにインディオとの交流が進んだことで、ペルーに先駆けてニューメラシー（算術能力）が発達しました。ニューメラシーの向上は近代初期における発展の指標の1つであり、植民地時代のアルゼンチンが急速に発展した理由でもあります。

まとめ

アルゼンチン経済は、その歴史的背景、ポピュリズム政策、制度的枠組みなど、様々な要因が複雑に絡み合い、特異な発展と衰退を経験してきました。今後の経済政策や国際情勢の変化によって、再び成長軌道に乗ることができるのか、注目されます。

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