アルツロ・ガッティ

アルツロ・ガッティ

アルツロ・ガッティ（Arturo Gatti、1972年4月15日 - 2009年7月11日）は、カナダを代表する元プロボクサーです。イタリア・ラツィオ州カッシーノに生まれ、後にカナダでキャリアを築きました。そのキャリアの中で、三つの異なる階級で世界王座を獲得した実績を持ちます。

ファイトスタイル

ガッティはリング上で常に強烈な闘争心を前面に押し出し、相手との凄まじい打ち合いを辞さないファイタータイプでした。一度火が付いた時の猛烈な攻撃から、「The Thunder（稲妻）」というニックネームで呼ばれました。キャリア晩年には、無駄な被弾を避けつつ攻撃を仕掛ける洗練されたスタイルも見せましたが、彼の全盛期における戦いぶりは、まさに自らも傷つくことを恐れず相手の急所を狙うという形容がふさわしいものでした。被弾を恐れない精神力こそが、彼の最大の強みだったと言えます。

ボクシングの本質である「殴り合う」という信条を体現する彼のファイティングスピリットは、特に攻撃的なボクシングが好まれるアメリカ大陸などで、その実力以上に高い人気を集めました。多くのファンを熱狂させ、記憶に残る数々の名勝負をリング上に創造しました。

プロキャリア

アマチュア時代にはカナダのナショナルチームメンバーに選ばれた経験がありますが、早期のプロ転向を志し、19歳の誕生日を迎えた後の1991年6月10日にプロデビューを果たしました。キャリアを着実に重ね、1994年5月6日にはUSBA全米スーパーフェザー級王座を獲得しました。

1995年12月15日には、IBF世界スーパーフェザー級王座を獲得し、世界チャンピオンの座に就きました。この王座を三度防衛する中で、1997年10月4日に行われたガブリエル・ルエラスとの三度目の防衛戦は、激しい攻防の末に5回TKO勝利を収め、1997年度のリングマガジンによるファイト・オブ・ザ・イヤーおよびノックアウト・オブ・ザ・イヤーに選ばれるほどの壮絶な試合となりました。この防衛成功後、彼は同王座を返上し、階級を上げる決断をしました。

階級アップ後、残念ながら3戦続けて敗北を喫しますが、1998年8月22日のイヴァン・ロビンソンとの一戦は、敗れはしたものの1998年度のリングマガジン ファイト・オブ・ザ・イヤーに選出されるほどの内容となりました。その後数年間はノンタイトル戦を戦い、再び世界王座を目指します。2004年1月24日、空位となっていたWBC世界スーパーライト級王座をジャンルーカ・ブランコと争い、これを獲得しました。この王座は2度の防衛に成功しましたが、2005年6月25日にフロイド・メイウェザー・ジュニアに敗れ、タイトルを失いました。

その後もリングに上がり続け、2006年1月28日にはトーマス・ダンガードを11回TKOで破り、空位のIBA世界ウェルター級王座を獲得して健在ぶりを示しました。しかし、同年7月22日にWBC世界ウェルター級王座獲得を目指しアルゼンチンのカルロス・バルドミールに挑んだものの、9回TKO負けを喫し王座奪取はなりませんでした。

2007年、再起を期してリングに復帰しましたが、初戦でアルフォンソ・ゴメスにKO負けを喫し、ついに現役引退を表明しました。

ミッキー・ウォードとの死闘

アルツロ・ガッティの試合は、しばしば壮絶な打撃戦となりました。中でも、アイルランド出身のボクサー、ミッキー・ウォードとの間で繰り広げられた三連戦は、ボクシング史に語り継がれる伝説的なシリーズとして知られています。ウォードもガッティに劣らぬ強靭なファイティングスピリットを持つ選手だったため、両者の対戦はポイントを度外視したような激しい打ち合いとなり、試合を通して両者とも血まみれになりながら、意地と本能を剥き出しにして殴り合う展開となりました。

シリーズ初戦は2002年5月18日に行われ、10回判定でウォードが勝利しました。続くリターンマッチは2002年11月23日に行われ、こちらも10回判定までもつれ込み、ガッティが勝利を収めました。これらの試合は、世界タイトルが懸かっていないノンタイトル戦であったにも関わらず、年間最高試合に挙げるファンが非常に多かったほどの名勝負となり、この異例の人気を受けて2003年6月7日に第三戦、通称ラバーマッチが組まれることになりました。三戦目も過去二戦に全く劣らない激しい打ち合いが展開され、10回判定の末にガッティが勝利し、シリーズを勝ち越しました。

特筆すべき点として、これら三度の対戦がいずれもノンタイトル戦であったにも関わらず、多くのファンがキャリア全体を通じたベストバウトにこのシリーズを挙げたことです。特に第三戦は、ノンタイトル戦でありながら大会のメインイベントとして組まれ、チケットの入手が極めて困難になるほどの注目度でした。

また、この壮絶な三度の激闘を通じて、二人の間には強い友情が芽生えました。激闘の代償としてウォードは視界が二重に見えるダブルビジョンという症状に苦しむことになりますが、その治療費の一部を拠出したのはガッティでした。引退後、ウォードはガッティのトレーナーやスパーリングパートナーとして彼を支えました。

死去とその後

2009年7月11日、休暇で訪れていたブラジル国内でガッティは遺体で発見されました。当初は現場の状況から事件の可能性が疑われ、同年7月13日には同行していた妻が殺人の疑いで逮捕されましたが、その後の捜査により7月30日には死因が自殺と判断され、妻は釈放されました。しかし、その後も遺族や関係者の一部はこの自殺説に納得せず、埋葬された遺体を掘り起こして再検視を行うといった騒動も発生しました。

2013年、その功績を称えられ、国際ボクシング名誉の殿堂博物館に殿堂入りを果たしました。

獲得した主なタイトル

USBA全米スーパーフェザー級王座
IBF世界スーパーフェザー級王座
WBC世界スーパーライト級王座
IBA世界ウェルター級王座

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