アルトフルート

アルトフルート：深みのある音色を奏でるフルート族の楽器

アルトフルートは、フルート属の木管楽器であり、コンサートフルートよりも低い音域を担当します。フルート・ダモーレに次ぐ低音域をカバーし、その音色は柔らかく、深みがあるのが特徴です。コンサートフルートと同じ運指で演奏できる一方で、管の太さや息の量に違いがあり、独特の演奏技術が求められます。

アルトフルートの特徴

音域: G3（中央ハの下のト音）からG6（実音でト音譜表の上第4線、三点ト）が基本音域で、さらにD♭7まで高音域を伸ばすことができます。
移調楽器: ト調の移調楽器であり、楽譜の音符よりも4度低い音が出ます。ピッコロやバスフルートと同様に、指使いはハ調のフルートと同じです。
音色: 低音域が特に柔らかく、ダイナミックな表現がしやすいのが特徴です。これは、管がコンサートフルートよりも太く、より多くの息を必要とするためです。
構造: 頭部管にはU字型とまっすぐなものがあります。U字型は腕の負担を軽減しますが、音質はまっすぐなものの方が優れているとされます。アンブシュアはコンサートフルートに近いですが、楽器の大きさに合わせて大きくなります。

歴史

アルトフルートのデザインを完成させ、音程を定めたのはテオバルト・ベームです。彼はこの楽器を非常に好んだとされています。

名称について

イギリスでは、アルトフルートがバスフルートと呼ばれることもあります。しかし、バスフルートという名前の別の楽器も存在するため、混乱が生じることがあります。これは、現代のコンサートフルートの音域がルネサンス時代のテナーフルートと同じであるため、テナーフルートよりも低い音域の楽器をバスと呼んだことに起因します。

アルトフルートの楽曲

アルトフルートは、その独特の音色から、多様なジャンルの楽曲で用いられています。以下に、アルトフルートのための代表的な楽曲と、アルトフルートが用いられている管弦楽曲をいくつか紹介します。

アルトフルートのための楽曲

ソロ曲:
ブルーノ・バルトロッツィ：『カンティレーナ』
ガース・バクスター：『柳の木による変奏曲』
ジョナサン・ベイリー：『パンのための音楽』(1982)
マイケル・チャーニ＝ウィルズ：『Trystyng』
フィリップ・チャプロフスキ：『Elegia』(2007)
チャールズ・ディレイニー：『「シーズ・オブ・ラヴ」による変奏曲』(1989)
アレクサンダー・ゲール：『Ariel Sing』(2003)
フィリップ・エルザン：『5つのミニアチュア』(1995)
ダニエル・ケスナー：『A Serene Music』(2012)
コリーン・モーシンク：『アンドロマケー』(2010)
パトリック・ナン：『Maqamat』(2002)
マイケル・オリバ：『Les Heures Bleues』(2013)
エドウィン・ロクスバラ：『ダイシャクシギ』(1994)
カイヤ・サーリアホ：『風の色』(1998)
ハービー・ソルバーガー：『Hara』
カールハインツ・シュトックハウゼン:『Susanis Echo』、3. ex Nr. 58+1⁄2 (1985) / 『Xi』、3. ex Nr. 55 (1986)
デービッド・ベネット・トーマス：『Carla』(2012)
アルトフルートとピアノのための曲:
トム・フェボニオ：『アルトフルートとピアノのためのソナタ』
ダニエル・ケスナー：『Simple Motion』(1993)
メルヴィン・ローフ：『Passing Thoughts』
フィリス・ルーク：『As The Clouds Parted』
アンドルー・マクバーニー：『The Moon by Night』(2003)
マイク・モワー：『ソネット』
ローラ・ペティグルー：『Offertoire』
アルトフルート、ピアノ、電子楽器:
ジョン・パーマー：『Afterglow』

管弦楽曲におけるアルトフルート

アルトフルートは、クラシック音楽の分野でも、その独特の音色を活かして用いられています。

主な使用例:
ニコライ・リムスキー＝コルサコフ：オペラ『ムラダ』
モーリス・ラヴェル：『ダフニスとクロエ』
イーゴリ・ストラヴィンスキー：『春の祭典』
フランコ・アルファーノ：オペラ『シラノ・ド・ベルジュラック』
セルゲイ・プロコフィエフ：『スキタイ組曲』
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ：オペラ『賭博師』（未完）、『ムツェンスク郡のマクベス夫人』、交響曲第7番
グスターヴ・ホルスト：組曲『惑星』
ピエール・ブーレーズ：『ル・マルトー・サン・メートル』
現代の音楽:
ハワード・ショア：『ロード・オブ・ザ・リング』の音楽
1940年以前のハリウッド映画（例：ジェローム・カーンの『空とぶ音楽』(1932) と『Very Warm for May』(1939)）

アルトフルートの演奏家

近年では、アルトフルートを専門とする演奏家が増えてきています。以下に代表的な演奏家を挙げます。

クリスティアン・ル・デレジール（フランス、即興演奏家・作曲家）
クリス・ポッター（アメリカ）
カーラ・リーズ（イギリス、キングマ・システムのアルトフルート奏者）
アリ・ライアソン（ジャズ演奏家）
ブライアン・ランドルス（ジャズ演奏家）
ピーター・シェリダン（アメリカ出身、オーストラリア在住）
マティアス・ツィーグラー（スイス、作曲家・演奏家）
シュテファン・ケラー（スイス、作曲家・演奏家）
アン・ラベルジュ（オランダ、作曲家・演奏家）
奥野由紀子（日本、アルトフルート奏者、第21回日本フルートコンヴェンション・アルトフルート部門優勝）


アルトフルートは、その独特の音色と表現力によって、現代音楽でも重要な役割を果たしています。今後ますます、その魅力が広く知られるようになるでしょう。

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