アルド・ロッシ

アルド・ロッシ（Aldo Rossi, 1931年5月3日 - 1997年9月4日）は、イタリアの建築家であり、その独創的な建築理論とデザインで20世紀後半の建築界に大きな足跡を残しました。1980年代を中心に、建築理論、ドローイング、設計という三つの領域で国際的な評価を確立し、その非凡な業績は今日でも多くの建築家や研究者に影響を与え続けています。

生涯と初期の活動

ミラノで生まれたロッシは、1949年にミラノ工科大学（ポリテクニコ）に入学し、1959年に卒業しました。学生時代から建築雑誌『Casabella Continuità』に寄稿し、1961年から1964年まで編集に携わるなど、ジャーナリズムの世界でも才能を発揮しました。1964年には同誌を離れ、自身の建築設計事務所を開設し、建築家としてのキャリアを本格的にスタートさせました。

その後、ロッシは各地の大学で都市計画の研究を進め、1965年にはミラノ工科大学で準教授に就任しました。1970年代から1980年代にかけては、スイス、ヴェネツィア、ニューヨークなど、欧米各地の大学や研究機関で教鞭を執り、後進の育成にも力を注ぎました。

建築思想と影響

ロッシの初期の作品は、1960年代のものが中心で、その多くは理論的な架空の計画やコンペで選外となった未完の作品でした。これらの作品には、1920年代のイタリア・モダニズム[[建築]]（特にジュゼッペ・テラーニの影響）、19世紀末の建築家アドルフ・ロースの古典主義や機能主義、そして20世紀前半の画家ジョルジョ・デ・キリコの都市を描いた絵画からの影響が色濃く見られます。

1966年に出版された著書『都市の建築』と、1981年の『科学的自伝』は、彼の建築思想を深く理解する上で重要な文献です。ロッシはこれらの著作を通じて、都市を歴史と記憶の積み重ねとして捉え、都市の構造と人々の集合的な記憶の関わりを強調しました。彼は、都市は時間をかけて建設されていくものであり、その歴史と文化的な文脈を考慮しながら研究されるべきだと主張しました。特に、時間の経過に耐えて残る都市の構造物やモニュメントに深い関心を示し、それらが都市のアイデンティティを形成する重要な要素であると述べました。

1970年代後半から、幾何学的な建築案が次々と実現し、1970年代末から1980年代にかけて、ロッシの建築思想は世界中の建築界に強い影響を与えました。彼は「テンデンツァ（La Tendenza）」と呼ばれる新合理主義建築運動の創始者の一人とされており、その影響は、同時期のアメリカにおけるロバート・ベンチューリの理論と比較されることもあります。しかし、ベンチューリがポストモダニストであったのに対し、ロッシは古代ギリシア・古代ローマ以来のヨーロッパの都市デザインの伝統を踏まえ、モダニズムをさらに発展させる立場を取りました。

主な作品と評価

1979年のヴェネツィア・ビエンナーレのために設計された、船で海に浮かぶ劇場『Teatro del Mondo（世界の劇場）』は、ロッシの代表作の一つです。この劇場は、仮設でありながらもそのユニークなデザインとコンセプトで大きな話題を呼びました。また、ジェノヴァの第二次世界大戦で破壊された国立オペラハウス（カルロ・フェリーチェ劇場）の再生計画など、数多くの建築プロジェクトを手がけ、その卓越したデザイン能力を示しました。

1990年には、建築界における最も権威のある賞の一つであるプリツカー賞を受賞しました。審査員の一人である建築評論家、エイダ・ルイーズ・ハクスタブルは、ロッシを「たまたま建築家になった詩人」と表現し、彼の作品が持つ詩的な感性と深い思索を称えました。

突然の死と遺産

1997年、ロッシは多くのプロジェクトを抱えながら、ミラノで自動車事故に遭い、66歳という若さでこの世を去りました。彼の突然の死は、世界の建築界に大きな衝撃を与えましたが、彼の残した建築作品や著作、そして革新的な建築思想は、今日でも多くの建築家や研究者たちにインスピレーションを与え続けています。

ロッシの建築は、都市の歴史と記憶、モニュメントの重要性を深く考察しており、その思想は現代の都市計画や建築デザインにおいても重要な指針となっています。彼の業績は、建築史における重要な遺産として、今後も長く語り継がれていくでしょう。

主要作品

• - サン・カタルドの墓地
• - 世界の劇場
• - カルロ・フェリーチェ劇場（再建）

受賞

• - プリツカー賞（1990年）

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