アルファロメオ・アルファスッド

アルファロメオ・アルファスッド：南イタリアの夢と挫折

アルファロメオ・アルファスッドは、1971年から1989年まで製造されたイタリアの小型大衆車です。その誕生は、イタリア政府の南北経済格差是正という国家プロジェクトと深く関わっていました。産業復興公社(IRI)が南イタリア・ナポリ近郊に建設した工場で生産され、「スッド (Sud)」はイタリア語で「南」を意味します。

画期的設計と高い評価

アルファスッドの主任設計者はルドルフ・ルスカ。フェルディナント・ポルシェの薫陶を受けた彼は、水平対向エンジンや4輪ディスクブレーキなど、当時としては高度なメカニズムを採用しました。ジョルジェット・ジウジアーロによる洗練されたデザインも相まって、ジャーナリズムから高い評価を受けました。シャープなハンドリング、広い室内空間、強力なブレーキ性能は、同時代の小型車の中でも際立っており、発売当初は高い人気を誇りました。

品質問題と影

しかし、アルファスッドは深刻な品質問題に悩まされました。生産工場の技術力不足、労働争議、そして防錆処理が不十分な鋼板の使用などが、ボディの腐食や仕上げの悪さといった問題を引き起こしました。クーラー装着時のオーバーヒート問題も発生し、販売期間中に評判は大きく転落しました。

これらの問題により、アルファロメオというブランドイメージそのものが損なわれ、企業経営にも悪影響を及ぼしました。高い販売台数を記録したにもかかわらず、早期廃車も多いことから、現在、当時のアルファスッドは希少な存在となっています。

モデルバリエーション

アルファスッドは、当初1200ccの2ドア／4ドアセダンで発売されました。その後、高性能版「ti」、上級グレード「L」、3ドアワゴン「ジャルディネッタ」などが追加されました。1980年にはデザインの大幅変更と防錆対策の強化が行われ、シリーズ2へと進化しました。

スポーツモデル：スプリント

1976年には3ドアクーペの「アルファスッド・スプリント」が登場しました。ジウジアーロによる直線的なデザインが特徴で、1300cc、1500ccエンジンが搭載されました。1983年に「アルファロメオ・スプリント」と名称変更し、ベルリーナ系の生産終了後も1989年まで製造されました。

モータースポーツへの挑戦

アルファロメオのモータースポーツ部門「アウトデルタ」は、WRC（世界ラリー選手権）にもアルファスッドを投入しました。「スプリント」は1985年のモンテカルロ・ラリーでクラス優勝を収めました。また、グループB参戦を目指した「スプリント6C」というプロトタイプも存在しました。これはミッドシップレイアウトのV6エンジンを搭載する野心的なモデルでしたが、実現には至りませんでした。

アルファスッドと日本市場

日本市場では1974年から輸入が開始されました。伊藤忠オートが右ハンドル仕様を販売しましたが、排ガス規制への対応が難しくなり、1976年には輸入が中断されました。その後、限定輸入が再開されるも、品質問題やディーラーの変遷などにより、市場での存在感は低いまま終わりました。カーグラフィック誌による長期テストや関係者による所有経験談は、その優れた走行性能と深刻な品質問題の両面を浮き彫りにしました。

ジオキャトロ グループB

オーストラリアでは、スプリント6Cをベースとしたカスタムカー「ジオキャトロ グループB」が製作されました。カーボンボディ、ミッドシップレイアウトのV6またはV8エンジンを搭載するスーパースポーツモデルで、オーストラリアのラリーイベントで人気を博しました。

エンジンバリエーション

アルファスッドには、1186ccから1712ccまでの様々なエンジンが搭載されました。

アルファスッドは、優れた技術とデザインを持つ一方で、品質問題という大きな課題を抱えていた複雑な歴史を持つ車と言えるでしょう。その魅力と欠点を理解することで、この車が持つ独特の個性をより深く知ることができるでしょう。

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