アルフレード・クラウス

アルフレード・クラウス：20世紀を代表するリリコ・テノール歌手

アルフレード・クラウス（Alfredo Kraus Trujillo, 1927年11月24日 - 1999年9月10日）は、スペインが生んだ傑出したテノール歌手であり、20世紀後半において最も偉大なリリコ・テノールの一人とされています。

生涯

カナリア諸島のラス・パルマス・デ・グラン・カナリアで生まれたクラウスは、ジャーナリストの父とスペイン人の母を持つ家庭で育ちました。幼少期からオペラやサルスエラに親しみ、声楽への関心を深めます。電気技師を目指して工業学校に通う傍ら、地元合唱団で歌い、その才能を開花させました。

1948年、クラウスはバルセロナに渡り本格的な声楽の訓練を開始。その後イタリアでも研鑽を積み、呼吸法や声帯のコントロールなど、基礎を徹底的に磨きました。焦って舞台デビューすることなく、自己流に陥ることを避けた禁欲的な訓練期間は、彼の後のキャリアに大きな影響を与えました。

1956年、エジプトのカイロでヴェルディの『リゴレット』公爵役、プッチーニの『トスカ』カヴァラドッシ役でデビュー。カヴァラドッシ役は自身の声質に合わないと判断し、以降レパートリーから外しました。同年にはヴェネツィアとトリノでヴェルディの『椿姫』アルフレード役を演じ、1950年代末までに自身の代表的な役柄としました。1958年のリスボンでのマリア・カラスとの共演は、特に名高い録音として知られています。

1959年にはロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでドニゼッティの『ランメルモールのルチア』エドガルド役（共演：ジョーン・サザランド）、1960年にはミラノ・スカラ座でベッリーニの『夢遊病の女』エルヴィーノ役を演じ、リリコ・テノールとしての地位を確立しました。

クラウスの名声を不動のものとしたのは、1965年から取り組んだマスネの『ウェルテル』題名役でした。アリア「春風よ、何故私を目覚めさせるのか」は彼の代名詞となり、「ティート・スキーパの再来」とまで称えられました。

1970年代後半以降、クラウスは完璧なテクニックを追求するため、レパートリーを『ウェルテル』、ドニゼッティの『連隊の娘』トニオ役、『ラ・ファヴォリータ』フェルナンド役など、わずか10程度に絞り込みました。年間の舞台数も20～25に制限し、禁欲的な舞台生活を送りました。その結果、70歳を超えても衰えぬ美声を保ち、1999年に病に倒れる直前まで現役として活躍しました。1999年9月10日、マドリッドで逝去。72歳でした。

1992年のバルセロナオリンピック開会式では、オリンピック賛歌を独唱しました。

日本との関わり

クラウスは1971年と1973年にNHKイタリア歌劇団の一員として来日し、『ラ・ファヴォリータ』とグノーの『ファウスト』で日本の聴衆を魅了しました。1996年6月にはデビュー40周年記念リサイタルで最後の来日を果たし、『ウェルテル』や『アルルの女』などを披露、格調高い歌声で聴衆を熱狂させました。アンコールで歌った『リゴレット』の「女心の歌」は、会場を興奮の渦に巻き込みました。

エピソード

品格のある歌唱で愛されたクラウスは、口髭をたくわえた容姿もまた、彼のトレードマークでした。彼はインタビューで「（口髭が不自然になるような）若い役を演じる時は、化粧を厚くして髭を隠します。客席から見てもらう分にはそれで問題ないので、今まで役のために髭を剃ったことはありません」と語っています。

また、録音に関しては「ライヴ録音の方が感情表現が自然なので、好きなのです。ただ、そういうライヴ録音はほとんど海賊盤なのですが…」と、ユーモアを交えて語っています。

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