アルベール・カーン

アルベール・カーン：時代を映した銀行家、慈善家

アルベール・カーン（1860年3月3日 - 1940年11月14日）は、フランスの実業家、銀行家であり、20世紀初頭の世界を記録した「地球史料館」の創設者として知られています。彼は、南アフリカでの金鉱とダイヤモンド鉱への投機で得た莫大な財産を、人類の文化遺産を記録し、平和を促進するための活動に費やしました。

生い立ちと成功

アルザス地方の貧しいユダヤ系家畜商人の家庭に生まれたカーンは、自力で成功を収めました。1898年には自身の銀行を設立し、金融業界で確固たる地位を築きます。しかし、彼は単なる富豪ではありませんでした。慈善活動への強い意欲を持ち、「世界一周」と称する奨学金制度を創設し、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本の若者たちを世界各地へ派遣し、異文化への理解を深めさせました。

地球史料館の設立

ドレフュス事件を契機に社会の表舞台から退いたカーンは、1908年、私財を投じて「地球史料館」を設立しました。彼は、世界各地の風景、人々の生活、文化、習慣を記録することの重要性を認識し、写真家を世界中に派遣しました。その結果、72,000点以上のカラー写真（オートクローム方式）と、約100時間に及ぶフィルムが収集されました。これらの貴重な資料は、20世紀初頭の世界を鮮やかに蘇らせる、比類なき映像遺産となっています。

晩年と遺産

1929年の世界恐慌は、カーンの経済状況を悪化させ、1936年には破産。彼の財産は差し押さえられ、晩年は困窮の中で過ごしました。しかし、彼が設立した「地球史料館」は、彼の死後もその価値を失うことなく、フランスのセーヌ県に買い取られました。現在、パリ郊外のブローニュにあるアルベール・カーン美術館では、彼のコレクションが一般公開されており、20世紀初頭の世界を体験することができます。

日本との関係

カーンは、日本との関係も深く築いていました。銀行設立当初、フランス資本が日本への投資に消極的だった時代に、彼は駐仏公使の本野一郎を通じて日本への投資に踏み切りました。渋沢栄一、浅野総一郎、大倉喜八郎など、明治時代の財界人との交流も深めました。アルベール・カーン庭園には、1898年に造られた美しい日本庭園があり、彼の日本文化への関心を示す象徴となっています。

1908年、カーンはカメラマンのアルフレッド・デュテルトルを伴い、日本を訪れました。この訪問は「地球映像資料館」の撮影取材を兼ねており、大隈重信邸を訪問し、大隈本人を撮影したフィルムが現存しています。また、フランスに在住していた北白川宮成久王・房子内親王夫妻とも親交があり、皇族の日常風景を撮影することも許可されました。

アルベール・カーンの生涯は、一人の銀行家が世界平和と文化遺産の保護に貢献した物語です。彼の残した映像と庭園は、今もなお多くの人々に感動とインスピレーションを与え続けています。

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