アルベール・マルケ

アルベール・マルケ：穏やかな色彩の詩人

1875年、フランスのボルドーに生まれたアルベール・マルケは、20世紀を代表するフランスの画家の一人です。フォーヴィスム、いわゆる野獣派に分類されますが、その作風は他の野獣派画家とは一線を画しています。激しい色使いやデフォルメを避け、グレーや淡い青を基調とした落ち着いた色彩と、穏やかなタッチで風景を描いたマルケは、「水の画家」とも称賛されました。

パリの光と影、そして旅の記憶

マルケは1893年、パリの装飾美術学校に入学し、その後エコール・デ・ボザールで学びます。そこで、後に親交を深めるアンリ・マティスやジョルジュ・ルオーらと出会いました。特にマティスとは非常に親しく、絵の具を分け合ったり、並んで絵を描く仲だったと言われています。マティスは晩年、マルケを「わが北斎」と呼んだという逸話も残っています。

また、作家シャルル＝ルイ・フィリップとも親交があり、フィリップの代表作『ビュビュ・ド・モンパルナス』の挿絵を依頼されたこともありましたが、残念ながら出版社の都合で実現しませんでした。この挿絵はマルケの死後、フィリップの妻によって出版されました。

マルケはパリの街並みや港をこよなく愛し、その風景を数々の作品に描き残しました。セーヌ川の流れ、静かな港の情景、そして柔らかな光と影。彼の作品からは、パリの情緒が静かに、しかし力強く伝わってきます。

生涯でアルジェリアなど各地を旅しましたが、彼の穏やかな画風は変わることはありませんでした。旅先での出会いと風景は、彼の感性に新たな色彩と奥行きを与え、作品に深みをもたらしました。

代表作：穏やかな情景の数々

マルケの作品は、多くの美術館に収蔵されています。その代表的な作品には、サンミシェル橋、パリのトリニテ広場など、パリの街並みを捉えた風景画が多く含まれます。また、日本国内の美術館にも多くの作品が所蔵されています。

日本所蔵の主な作品:

ノートルダムの後陣（愛知県美術館）
ポルト=ヴェルサイユの雪景色（国立西洋美術館）
冬の太陽、パリ（ポーラ美術館）
トゥーロン港の眺め（東京富士美術館）
パリ、ルーブル河岸（ヤマザキマザック美術館）
パリ、カルーゼル広場（ポーラ美術館）
坐る裸婦（国立西洋美術館）
赤い背景の裸婦（群馬県立近代美術館）
マルセイユの港（大原美術館）
霧のリーヴヌーヴ、マルセイユ（上原近代美術館）
レ・サーブル・ドロンヌ（国立西洋美術館）
アルジェの領事館（ポーラ美術館）
ラ・ショームの家並み（ヤマザキマザック美術館）
アルジェリアの港（ポーラ美術館）
小船＝オンダイユ（メナード美術館）
サン・ジャン・ドウ・リュズの港（ヤマザキマザック美術館）
赤いヨット、オーディエルヌ（島根県立美術館）
パリ，サンルイ島の先端（長島美術館）
ブーローニュ・スュル・メールの靄（村内美術館）
ブーローニュ=シュル=メール港の眺め（ポーラ美術館）
テレムリの道（ポーラ美術館）
ヴェニスの朝（鎌倉大谷記念美術館）
アルジェの港（丸沼芸術の森）
ポン・ヌフとサマリテーヌ（ひろしま美術館）
アルジェの港ル・シャンポリオン（ヤマザキマザック美術館）
アルジェの港（松岡美術館）
* ツーロンの港（松岡美術館）

これらの作品は、マルケの穏やかで繊細な表現、そして彼自身の感性が凝縮されたものです。彼の作品を通して、私たちはパリの街の息遣い、そして彼の心の風景に触れることができるでしょう。

穏やかな革命家

フォーヴィスムという激動の時代にあって、マルケは自身のスタイルを貫きました。派手さや革新性こそなかったかもしれませんが、彼の作品は、静謐な美しさ、そして独自の詩情を湛えています。それは、時代の流れに流されることなく、自身の表現を追求した、真のアーティストの証と言えるでしょう。彼の作品は、今もなお、見る者の心を静かに、そして深く揺さぶります。

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